Challenge Stories
~私たちが未来のためにできること~

関西学院高等部の伝統と魅力
2023.10.19公開

高等部における探究型カリキュラム教育の実践と課題 vol.01

今回は、関西学院高等部の教諭4名に参加してもらい、「探究型カリキュラム教育の実践と課題」をテーマに座談会を開催しました。第1回目は、130年以上の歴史を持つ高等部の魅力や特長について、それぞれの経験も踏まえて意見を交わしました。

  • 高等部教諭(英語科)
    西室 雅央

    関西学院高等部、関西学院大学法学部、英国リーズ大学大学院教育学研究科出身。探究型カリキュラム委員会コンビーナーとして各学年及び全体会議のオーガナイズなどを担当。探究型カリキュラム授業においては現在「AI活用」を担当している。

  • 高等部教諭(地歴公民科)
    徳田 有希子

    関西学院大学文学部、関西学院大学大学院文学研究科出身。探究型カリキュラム授業においては、1年生「グローバル探究BASIC」、2年生「グローバルスタディ」の授業を担当。海外アドバイザーや他校と連携したオンライン国際会議も担当。

  • 高等部教諭(国語科)
    上田 篤志

    関西学院高等部、関西学院大学文学部、関西学院大学大学院文学研究科出身。探究型カリキュラム授業においては、1年生「グローバル探究BASIC」、2年生「AI探究」の授業を担当。2023年度には「アート思考」を立ち上げ、カリキュラムデザインを行った。

  • 高等部教諭(数学科)
    田中 章雅

    関西学院高等部、関西学院大学理学部、関西学院大学大学院理工学研究科出身。探究型カリキュラム授業においては、1年生「ソーシャル探究」、2年生「地域探究」などを担当し、生徒たちの学外での活動も支える。

関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務を横断して語り合う場を創出することで、教職員間の相互理解を促し、想いを共有します。


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら


今回は、受験にしばられない活きた学びで好奇心を育て探究心に進化させ、大学の学びへとつなげる教育を先進的に展開している関西学院高等部の教諭4名に参加してもらい、「探究型カリキュラム教育の実践と課題」をテーマに座談会を開催しました。130年以上の歴史を持つ高等部の魅力、探究型カリキュラム教育の実践と課題、今後の展望について意見を交わしました。教諭たちの熱い思いを4回に分けてお届けします。


自律的に学びのサイクルを回す環境


徳田 受験勉強があるとないで、高校生の勉強の目的は全然違ってきますよね。本校では基本的に受験は必要ないので、物事をじっくり考えたり、世の中のことを知りたいという様々な好奇心を持った生徒が多く在籍しているように思います。教員側も「受験に出るから」というモチベーションやメッセージで生徒の興味を引きつけることはできません。ですが、生徒たちには、身近なことを深く掘り下げ、学問の真髄に触れた時の目の輝きと言いますか、反応があるなと感じています。本校には、多角的な視点から生徒の興味を引くのが上手な先生が多くおり、それぞれに深みのある授業を実施しています。先生方はおそらく「どうすれば生徒に面白いと思ってもらえるか、そして学問の深みにどこまで導けるか」というようなことを考えておられると思います。言い換えれば、そのような教育がしたくて本校に来た教員も多いと思います。そこがまず本校ならではの魅力ではないでしょうか。


上田 そうですね。一方で、大学入試があることで成長する面もありますよね。大学入試があるからこそ「最低限ここまではインプットしないと」と、がむしゃらに勉強します。いわゆる学習に対するバイタリティのようなものは、やはり受験勉強が大きく影響すると思います。しかし、本校の生徒たちは、本校ならではの学びの中で、ひとたびスイッチが入った時の「勉強してやる、学びたい」という意欲がエンジンとなり、教員も驚くほどに自走していくんです。


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徳田先生もおっしゃるように、大学入試のためとか、点数を取るためというような他律的なモチベーションではなく、自律的に学ぶサイクルが始まるきっかけを生み出して、それを育むという意味において、本校の教育の軸であると理解しています。生徒たちは推薦入試で関西学院大学に9割以上が進学できる環境にいるので、実際にそういった学びにチャレンジできる環境が整っています。
参考:関西学院高等部の進路情報についてはこちら


徳田 入学してすぐ、生徒たちは英語実力テストを受ける機会があり、様々な角度からテスト結果が分析されます。この分析結果で面白いなと思ったのが、英語を勉強する目的・意味を問う設問で、「受験のため」と答える高校生が多い中、本校では「使うための英語を身につけるため」と答えた生徒が多いということです。実際、英語によるコミュニケーションの授業では、生徒たちは本当によく喋ります。「生涯かけて英語を使っていきたいんだ」という気持ちが感じらます。これは将来の大学での学び、そして大学卒業後も継続するモチベーションなのではないかと思います。



伝統的な「自由・自治」と「責任」が、生徒を育てる


田中 私と上田先生は、関西学院高等部の同級生で、西室先生は先輩にあたります。高校時代、本校で学んだことの中には、他校ではなかっただろうと思うことがたくさんあります。例えば、何か物を作るとなれば、生徒自身が納得するまで、とことんやることができました。夜6時にできなければもう少し残ればいい、という環境でした。また反対に、「本当にそれで納得しているか?」と周りから問われることもありました。突き詰めて物事に対峙する姿勢は、社会に出るととても大切なことですが、そのことを高校生のうちから実践できて学べる学校だったと思います。


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思い出深いのは文化祭です。生徒たちが主体となるイベントなので、僕たちの頃は教師会の意向と異なる場合でも「僕たちはこれをやりたいです」と言うと、本当にやらせてもらえた。ただ、単に自由だったということではなくて、そこには責任が伴っていました。まだ高校生ではありましたが、当時の先生方は僕ら生徒に、「これは君たちが責任をもってやることでしょ」ということをはっきりおっしゃっていました。なので、責任の取り方をきっちり学び、そのためにはどうすればいいかということをみんなで考えていました。それがあったからこそ、自由と自治が根付いていたのだと思います。当時を思い返すとすごいことだったなと感じます。今の生徒たちも文化祭等を通して大切な学びを経験していると思います。


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あと、探究学習もそうですが、例えば校則をみんなで考えるルールメイキングなどは、僕たちが高校生の頃からすでに行われていたことで、当時は珍しかったことです。最近では多くの高校で取り入れられていますが、本校がパイオニアだったことに満足するのではなく、本校はより工夫をこらして様々なことに挑戦していかなければ、とも思います。


西室 せっかくですので、田中先生の同級生の上田先生にもお話を聞いてみましょう。おふたりは仲が悪くて、当時はよく喧嘩していたそうですね(笑)。


上田 いえいえ、仲が悪かったわけではないんですよ。少なくとも僕はそう思っています(笑)。でも周りからは激論を交わしているように見えたでしょうね。価値観が違うんです。田中先生は、論理的で理屈に合わないことは、徹底的に追求されます。僕はどちらかというと、こっちの方が夢があるとか、彩りが豊かであるとか、そういう考え方をするんですね。そうすると田中先生から「それは具体的にどういうエビデンスがあって言ってんの?」と質問が飛んでくるわけです。高校の時からそんなやりとりをよくやっていました。今はどちらも必要だとわかりますけどね。振り返ると高校生とはいえ、ひとつの行事を共に作っていく中で、自分の個性を自分なりに突き詰めていけば、当然対立も生まれます。でも、ぶつかり合いながらも最終的にひとつのものを作り上げたからこそ、今も大きな充実感が残っているのだと思います。


西室 自由にさせてくれたんだな、背伸びさせてくれたんだなと、今、改めて思いますよね。当時の先生方は、本当に懐が深かった。このような学校の雰囲気は今でも残っています。安全面への配慮など時代と共に変化した部分はありますが、根本の部分は変わっていません。



個性を認め、尊敬し合える、教員たちの関係性


徳田 教員の人間関係が近く感じられる点も魅力だと思います。職員室でも面白いことを言う先生が多く、とにかく笑いが多いです。何気ない話を笑いに変えるなんて、頭の回転がよくないとできないことですよね。仕事って決して楽ではないですし、簡単でないことも多いですが、ユーモアを発揮することで、「まあ、こんなこともあるよね」みたいに受け止めることができて、次に進むことができます。周囲を救えるような笑いの力を、私も鍛えたいです。


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西室 徳田先生もけっこう面白いですよ。


徳田 面白いですか? それは天然という意味では......(笑)


上田 僕は教員として本校が3校目ですが、本校の特長だと思うのは、とにかく先生方の個性が開花しまくっているということです。それぞれが何かに対して突き詰めておられて、尊敬できるところがある先生ばかりなんです。お互いに尊敬し合える関係だからこそ、笑いが多く生まれるんじゃないかと思うんです。反感を抱くようなことがないんですよね。


徳田 確かにそうですね。私も前任校との文化の違いを感じます。前任校の先生方はすごく真面目でいい人が多く、「ちゃんとしよう」という雰囲気が強かったように思います。みんなで足並み揃えようというプレッシャーは、私にとっては少しストレスであったかもしれません。その真逆で、関学は足並みを揃えさせようとする力に対する反発がとても強い(笑)。それぞれの個性を認める風土が根付いている気がします。


上田 最小限「共通でちゃんと守ろうね」という部分があって、あとは個性ですよね。探究学習についてもそうだと思いますよ。


徳田 人間関係のよさが根底にあるから、生徒だけでなく教員もチャレンジできる風土がありますよね。


西室 そうですね。以前、探究型カリキュラム教育の目標設定に向けた議論を教員の合宿でやったんですよね。先生方の専門分野、教え方、教師としての信条などは、当然、それぞれで異なるのですが、いざ合宿をするとなると、みな集まってくれました。個性豊かな先生たちが集まり、ひとつの探究型カリキュラム教育を構築するとなるとハレーションは起きるし、ぶつかり合うことも実際ありました。ですが上田先生がおっしゃったように、「最小限を共通化させましょう。けれども、ここは先生の良さ、得意な点をもっと出してください」とそれぞれの知見を活かすやり方になったんですよね。忙しい年末に、泊まりで先生方が集まってくださって、大学の先生にも来ていただいて。年代もバラバラの先生方が一堂に会して「ああでもない、こうでもない」と意見や思いを交わせたことはすごく楽しかったです。


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徳田 合宿は面白かったですね。教員になってから、あんなにも純粋に思いをぶつけあって、新しいものを作っていく経験はなかなかなかったです。みなさん思いがあって、温度感があって、魅力を再認識できました。関学の教員は一見、バラバラなようでいて、みな関学が好きで働いている。そして生徒思いの先生方が多い。そこが個人的にとても好きですし、生徒にとっても教員にとっても良い環境になっている理由の一つだと思います。


西室 探究型カリキュラム教育構築の過程で、徳田先生がおっしゃったようなことに気づけたことも良かったことのひとつですね。



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