Challenge Stories
~私たちが未来のためにできること~

関学ならではの探究学習の実践と特長
2023.10.24公開

高等部における探究型カリキュラム教育の実践と課題 vol.02

第2回目は、「探究型カリキュラム教育」開発の経緯、「Mastery for Service」をスクールモットーに掲げる関学ならではの探究学習の特長や価値などについて、具体例をあげながら意見を交わしました。

  • 高等部教諭(英語科)
    西室 雅央

    関西学院高等部、関西学院大学法学部、英国リーズ大学大学院教育学研究科出身。探究型カリキュラム委員会コンビーナーとして各学年及び全体会議のオーガナイズなどを担当。探究型カリキュラム授業においては現在「AI活用」を担当している。

  • 高等部教諭(地歴公民科)
    徳田 有希子

    関西学院大学文学部、関西学院大学大学院文学研究科出身。探究型カリキュラム授業においては、1年生「グローバル探究BASIC」、2年生「グローバルスタディ」の授業を担当。海外アドバイザーや他校と連携したオンライン国際会議も担当。

  • 高等部教諭(国語科
    上田 篤志

    関西学院高等部、関西学院大学文学部、関西学院大学大学院文学研究科出身。探究型カリキュラム授業においては、1年生「グローバル探究BASIC」、2年生「AI探究」の授業を担当。2023年度には「アート思考」を立ち上げ、カリキュラムデザインを行った。

  • 高等部教諭(数学科)
    田中 章雅

    関西学院高等部、関西学院大学理学部、関西学院大学大学院理工学研究科出身。探究型カリキュラム授業においては、1年生「ソーシャル探究」、2年生「地域探究」などを担当し、生徒たちの学外での活動も支える。

将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)の実現には、教職員たちの強いつながりが不可欠です。KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務を横断して語り合う場を創出することで、教職員間の相互理解を促し、想いを共有します。


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら


今回は、受験にしばられない活きた学びで好奇心を育て探究心に進化させ、大学の学びへとつなげる教育を先進的に展開している関西学院高等部4名の教諭によるトークを4回に分けてお届けします。


高等部における探究型カリキュラム教育の実践と課題 vol.01』はこちら



関学高等部における探究型カリキュラム教育のはじまり


西室 探究型カリキュラム教育は当初、教科の垣根を越えた教員2名が侃々諤々(かんかんがくがく)と意見を交わしながらそれぞれの知見を活かし、掛け合わせて授業を設計していくという主旨でスタートしました。実際に例えば、2年次の「グローバルスタディ」では英語科と国語科の教員が組んでいましたし、初年度の1年次「グローバル探究BASIC」では数学科の田中先生と英語科の私が組んでいました。例えば、現在、聖書科と読書科の教員が2年次の「ピーススタディ」を、理科と社会科の教員が2年次の「AI活用」を組んでいます。そうすることで教科の枠を越えて生徒たちが学際的に学んでいくことができます。


高等部(授業②).jpg


上田 本校には「読書科」という40年以上の歴史がある学校設置科目があります。専任教員2名が担当し、各学年1単位ずつ設置しています。この「読書科」では、各自の興味関心に基づき、アカデミックスキルを使って研究して論文を書くという探究的な学びを代々行ってきたわけです。この学びをベースに、ハンズオン(体験学習)、フィールドスタディ、データ分析などを加え、もう少し専門的にジャンルを絞って行っているのが、現在の探究型カリキュラム教育であるという印象です。


西室 高等部が2014年、文科省からスーパーグローバルハイスクール(SGH)事業の指定を受け、国際的なプログラムを先進的に開発していくために、関西学院大学と連携しながら事業を行っていた時代が5年間ありました。その後継として、2019年には新たに文科省のワールド・ワイド・ラーニング(WWL)コンソーシアム構築支援事業に採択されました。SGHは、国際理解教育や英語教育がメインでしたが、WWLコンソーシアムはさらに広く、まさに「読書科」で行われているような自分の関心からスタートする問いをベースに、社会課題と結びつけて、課題解決をしていく。その過程で、身になる力を、それぞれの学校の特色を出しながら、育んでいくことが目的になります。


高等部(グループワーク②).jpg


本校には「読書科」という非常に大事な土台があります。それを発展させる形で社会と繋がりを持たせる...、例えばNPOやNGOで、SDGsにかかわる活動に取り組んでおられる方々から話を聞き、現場におもむいて知見を得る。そこで得られた大切な学びを、大学での学びにつなげていくことを目指しています。また、「アクティブラーニング」の視点では、先生が生徒に一方的に知識を注入するだけではなく、生徒が自発的に知らないことや分からないことに気づき学んでいくという仕掛けが重要視されます。探究型カリキュラム授業では、こういった視点も取り入れ、社会課題を自分事として捉え、関わっていく姿勢を大事にしようということになりました。ディスカッションやプレゼンテーション、グループワークを多く取り入れ、先生からも生徒からも学ぶコミュニケーションを重視した授業スタイルが特長です。
高等部における探究型授業についてはこちら



探究型カリキュラム教育の実践、そして気づき


田中 初年度に「グローバル探究BASIC」を西室先生と担当した時は、意欲的な生徒が集まって、結構うまくいったなと思いました。しかし、同年12月に全国高校生フォーラムに参加した際には、審査員より「まとめただけで何もしてないよね」との非常に厳しいコメントがありました。フードロスについて約5分、英語でプレゼンテーションを行い、内容としてもきれいにまとまっていました。しかし、より高次の視点では、まとめるだけでは不十分で、実際に行動を起こしてようやく評価される、ということを実感しました。
私たちが高等部の生徒だった頃からある「読書科」の取り組みにさらに追加していくことがあるとすれば、「まとめて終わらないようにする」というところだと思います。社会課題を本当に解決するためには、やはり自分たちで何かアクションを起こさなければいけないですよね。関学はスクールモットーとして"Mastery for Service"を掲げているので、「課題解決に向けて行動する」こと自体、スクールモットーにまさに合致していると思います。だからこそ、次の一歩をどうするのかということを大切にしていきたいですし、そこが探究ならではの学びだと考えています。


田中先生③.jpg


僕は数学を教えていますが、「大人になったら役に立たない」という生徒の声をよく聞きます。しかし、実は社会生活でとても役に立つ数式があるんです。いわゆる「机上の学び」を実際に使えるようにしていくことが探究学習なんだろうと思います。社会に出たら、結局、自分で考えて動かないといけない。探究学習でよく言われる「自分で問いを見つけて、自分で解決していく」ことは、将来できないといけないことなんですよね。社会に出て、本当に困っている人を見た時に、「知ったからには助けないといけない」と考えるのが、関西学院で学んだ人物だと思っています。その素養として、実践するところまで高校で学べることは、生徒にとって大きなプラスだと思います。


上田 私は美術科の東浦教諭と連携して、今年度から「アート思考」という授業を立ち上げました。「アート思考」という言葉は最近よく耳にすると思います。AIの到来によって、またこの不安定な世の中において、ひとつの答えを導き出していく論理的思考力だけでは、立ち行かなくなってきています。社会的には、ソリューション、要するに課題解決をしていくことよりも、イノベーションをしていかないといけません。今の現代アートを牽引しているアーティストたちには、既成概念にとらわれない独創的な発想があります。それはとても大胆な発想で、社会に問いを投げかけ続けています。そのような「アート思考」を探究学習の中で身につけていく。その一方で、アートを用いた社会課題の解決方法についても学んでいく。例えば、アートによって、過疎化地域の復興を成し遂げた事例などもあります。この2つの柱をコンセプトに科目を立ち上げました。「探究科目」は昨年まで3科目でしたが、今年度から5科目に増えており、今後も広げていきたいという方向で検討されています。


西室 夏のフィールドスタディについてぜひ紹介してください。


上田 夏のフィールドワークは、直島や豊島といった瀬戸内の島々を舞台に、ベネッセとJTBと本校の3者で企画と運営を行います。瀬戸内の島々は、アートをキーワードに地域の魅力を世界に発信しています。そのことについて、地域の人たちがどうのように感じているのかをインタビューしに行きます。それと共に、開館前の美術館に行って、安藤忠雄建築の光の射し具合が作品にどう影響していくのかを実際に観て考えたり、アーティストが地域の人たちと一緒に作り上げた作品を鑑賞したり。その土地との関係性で生まれた作品をたくさん鑑賞します。いわゆるアート思考と課題解決を両輪で回していくフィールドスタディです。


高等部(アート).jpg


西室 この「アート思考」の科目は、上田先生の知見と美術科の先生の知見が合わさることで実現できたように思います。こういった専門的な知見を持っている先生が、高等部にはたくさんおられます。やはりこれは高等部の魅力であり、互いにリスペクトできるところであり、こういった先生たちがコラボすることで、高等部の探究型学習が形作られているんだと思います。



スイッチが入ることで、生徒たちは驚くほど変わる


西室 今後、探究に触れる生徒たちをもっと増やしたいと考えています。現在は、探究型としての必修選択授業を3科目から5科目まで増やしました。ほかにも理科でいうと、魚類学会で受賞されている生物の先生がいらっしゃるので、「そんな先生と探究ができればおもしろそう」ということでお声をかけています。先生方の様子を見ながら「この人とこの人だったらこういうことができそう」という視点でカリキュラムを開発していますが、本来は生徒たちの問いに答えていくべきものなので、先生の数だけ探究があるのではなく、むしろ生徒の数だけ探究がある、という考え方が正しいのだと思います。しかし、現実的には学校側が提供する科目である以上、ある程度テーマ設定をした中で探究してもらうやり方も正解なのではないかと現時点では考えています。個別の問いについては「読書科」で突き詰めてもらうというすみ分けです。


高等部(学外②).jpg


徳田 初年度は私自身「探究ってなんだろう」と思いながら、SGHのことをよく知った先生と組んでスタートしました。開始直後、「生徒たちはすごい力を持っているんだ」と、非常に驚かされました。探究学習を選択する生徒は、もともと意欲が高い傾向ですが、教員がレールを敷かなくても、スイッチさえ入れば、すぐに変化するし、みるみる成長していきます。「学びの主体は生徒だ」とはよく聞く言葉ですが、「こういうことなのか」と探究型カリキュラムの中で実感することが多々ありました。中には「授業がとても良かった」「考えさせられた」などと言ってくれる生徒もいました。授業が終わった後もどんどん自分で動いている生徒もいて、私たち教員が思ってもいなかったような変化を遂げる子がいて驚きました。もちろん、なかなか火がつかない生徒と、火のついた生徒との間に差異が生まれることもあり、難しさも痛感しましたが、私自身「生徒たちの中に燃料はあるから、生徒の思いの火をどのようにつけようか」という意識を持つようになりました。


高等部(授業①).jpg


こういった学びのエッセンスを、探究の授業だけでなく、普通の授業にもアレンジして取り入れられないか、というのが、今の私の課題です。これまでは「良い授業をしなくては」という思いで取り組んできたのですが、大事なのは「各生徒たちの中にある思いに、生徒自身でどうすれば気づかせることができるか」だと考えています。意識変革により、以前よりも授業内容が改善しているかもしれないと、自分自身に期待する部分もあります。
また、印象に残っている経験としては、IOMInternational Online Meeting)の立ち上げを担当したことです。これは国内外の約10校が集まり開催した国際会議です。本校は、WWLコンソーシアム構築支援事業の拠点校として、「グローバルスタディ」の生徒たちが中心になる企画で、合計3回開催されました。国内外の生徒や先生と、当然それぞれ価値観も違う中で話し合いながら進めたことで、生徒たちも私たち教員も「調整力」が大いに鍛えられました。私自身も社会人として多くの学びがありました。仲間と議論を交わしながら、立ち上げから創造できた経験は、生徒にとっても私たち教員にとっても、とても楽しく、貴重な経験でした。


徳田先生⑤.jpg


西室 各教科においても、探究学習においても、クラブ活動においても、結局、高校3年間で生徒に身につけて欲しい力とは、「自学できる力≒自分自身をアップデートできる力」だと思います。何か分からないことに出くわした時、教えてもらうのではなく、自分で解決策をゲットしていく。そうするとまた知らない世界が広がっていく。その面白さに気づいてもらいたいと思っています。私が3年前に担当した「ピーススタディ」では、関西学院の戦争の歴史と探究型学習を掛け合わせ、ARも活用しながら、「KG Peace Map」という成果物を作成しました。初めは生徒と一緒に、主に文献で関学の戦争の歴史について調べていたのですが、ある時点から「大学の学院史編纂室にインタビューしに行かないといけない」「印刷会社にコンタクトを取らないといけない」といった具合に、生徒たちが自走していくようになりました。そうなれば、私の役割はほぼ終了です。


高等部(学外①).jpg


要は、学びが自走するための仕掛け、きっかけ作りが必要なんだと思います。そのためには自分たちが知ったことに対して振り返り、今後どうすべきかを考えることが、非常に大事になります。つまり私たち教師には、そこにつながる授業や教育の環境作りのためのデザインを提供することが求められているんだと思います。大学入学後にはさらに深いことを学ぶでしょうし、社会に出れば自分の給料と結びつく専門的な仕事が求められるでしょうから、「学びが自走する面白さ」を知っておけば、やらされることに対しても楽しさを見つけられるんじゃないかと思うんです。


上田 ひとつスイッチが入ったら、次は何をしなければならないのかを自然と考えるようになる。これって課題解決の力だと思うんです。目標に向けて進んでいく力ですね。その一方、「問いを作る力」というのもあって、課題解決に向けて一つのレールが見えたとしたら、これを違う角度から見てみるとどうなるだろうと考え、新しい問いを、どんどんと生み出していく。課題を解決していくのと、問いを生み出すのは、共通するところもあるけど、ベクトルがちょっと違っていて、両方ともが大事だと僕は考えています。



「vol.03~探究型教育の次ステージに向けて~ 」へ


関西学院高等部についてはこちら


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら