Challenge Stories
~私たちが未来のためにできること~

~座談会:ライティングセンター① 設立の経緯~
2024.09.20公開

ライティング教育・学修支援 vol.1

今回は、ライティングセンターに関わる教員や大学院生に参加してもらい、「ライティング教育・学修支援」をテーマに座談会を行いました。第1回では、ライティングセンター設立の経緯やめざす書き手像について意見を交わしました。

  • ライティングセンター 教授
    福山 佑樹

    正課授業であるライティング科目(学部)を担当。ライティングセンターでは対面指導などの運営を統括し、その他FDやゲスト講師を通じての他部課との連携、イベントの企画立案、研究など、さまざまな活動を行っている。

  • ライティングセンター 准教授
    西口 啓太

    正課授業であるライティング科目(学部・大学院)を担当。ライティングセンターが提供する教育プログラムを中心に、正課授業の管理運営・企画・担当、学部教育の連携、動画教材の開発など正課内外の多くの活動に従事。また、ライティグ教育や個別支援に関する研究も行う。

  • ライティングセンター 契約助手
    久保 槙祐野

    ライティングセンター常駐スタッフ。対面指導の運営を担い、個別支援で学部生の対面指導をする他、教育指導員の研修、動画教材の開発・制作、広報活動、研究などに携わる。

  • 大学院生・ライティングセンター 教育指導員 ※取材当時
    木村 友紀

    関西学院大学大学院人間福祉研究科博士課程前期課程2年生。学部生が「自立した書き手」として成長できるようライティングセンターでサポートを行う。また、経験を積んだ教育指導員として、新人研修にも関わっている。

関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員をはじめ、本学院関係者の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務、立場を越えて語り合う場を創出することで、相互理解を促し、想いを共有します。


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら


関西学院大学では、2020 年にライティングセンターを開設し、「自立した書き手」の育成に取り組んでいます。今回は、ライティング教育・学修支援をテーマにした座談会の様子を4回に分けてお届けします。

◎あらゆる能力の基礎となる文章表現力の修得のために


福山 はじめにライティングセンター設立の経緯からお話ししましょう。ライティングセンターはKGC2039の長期戦略テーマ「学修支援の充実」の施策の一つとして設置が検討されました。文章表現力は、論理的思考力や表現力など汎用的能力の基礎となります。そのため、低年次に徹底して訓練することが重要だと考えられ、学術的な文章作成能力の修得を支援するため、20204月にライティングセンターを開設したのです。正課授業であるライティング科目の運営と対面指導を通じた個別支援(以下、個別支援)という2つのアプローチから「自立した書き手」を育成しています。また、学部生向けのセミナーや教員向けのFD研修会の開催などにも取り組んでいます。


西口 開設当時、日本でライティングセンターを置いている大学は100校程度でした。800校近く大学がある中での100校ですから、学修支援組織としてライティングセンターを設立している大学はまだそれほど多くなかったと思います。


福山 ラーニングコモンズのような交流や学びの拠点の中にライティング支援機能を設けている大学はありますが、本学のようにライティングセンターが独立して存在しているのは珍しいですね。ライティングセンターは西宮上ケ原キャンパス大学図書館の地下1階にあるものの、もともとカフェだった場所なので雰囲気も明るく、スタッフの様子をひと目で見られるのも一体感があってよい空間だと思います。


■西宮上ケ原キャンパス大学図書館の地下1階にあるライティングセンター


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西口 本学のライティングセンターは、個別支援の場合、博士課程前期課程・博士課程後期課程の院生や研究員といった専門的な学修をした人たちが主に教育指導員として支援に携わっています。これも本学の特徴のひとつなのではないでしょうか。


福山 他大学では専任職員や専任の指導員が多くの個別支援を行うこともありますが、本学では大学院生が担当する割合が多いように感じています。院生が教育指導員になる良さは何だと思いますか?


木村 院生は教員でもなく学部の先輩でもない、でも比較的年齢が近い立場です。お兄さん・お姉さん的な感覚で話せるのがよい点だと思います。


福山 もし私のような専任の教職員が支援に入ると学生も少し身構えてしまうかもしれませんが、院生だと先輩のような感覚で接することができるのでハードルが下がるのでしょう。いろいろな院生がいるので専門性も多様です。別の院生の個別支援を受けると、また違った観点から見えてくるものもあります。


久保 院生は、学部時代に卒業論文の執筆を経験した人もいるでしょうし、今も実際に研究活動をし論文を書いています。経験の豊富さという点で頼りになるだけでなく、 "書く"という苦労を共有しているので、共感もしてくれる。だから接しやすくて利用しやすいと、学部生から聞いています。


西口 これまでの教育の影響もあり、学修支援と聞くと何かダメ出しをされるのではないかと心配する学部生もいると思います。とくに教員相手だと身構えてしまうかもしれません。ですが、少し年上の先輩から直接その場でアドバイスをもらえるということであれば、学生の印象も変わるでしょう。本学のライティングセンターは大学院生の先輩が直接支援を行ってくれるという点で、書き手と支援者の関係性がつくりやすく、素朴な質問がしやすくなっていると思います。


福山 教育指導員という名称ではありますが"教える" より"寄り添う"という姿勢で支援にあたるように気をつけています。授業や個別支援で過度に丁寧に教えすぎることは依存を生む可能性があります。このため、多少学部生にとって不親切に感じられても、書き手自身が言いたいこと・書きたいことをきちんと考えるように促しています。どのライティングセンターも「自立した書き手の育成」や「紙(文章)を直すのではなく人を育てる」などを理念に掲げていて、そこにあまり差はありません。「自立した書き手」という言葉は、早稲田大学など、先行してライティングセンターを設置した大学でも使用されています。


西口 早稲田大学は日本で早期にライティングセンターを設置した大学なので、その影響を受けている面はあると思われます。ライティングセンターはアメリカが発祥です。アメリカで培われた理念や学生への支援の仕方などが日本に取り入れられたのですが、紙ではなく書き手を育てるという考え方は共通しています。


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◎関学がめざす「自立した書き手」とは


福山 関西学院大学が育成をめざしている「自立した書き手」について、皆さんはどう考えていますか。また、「自立した書き手」になることはどんな意義があると思いますか。


久保 私は"書き手"を少し広く捉えていて、論理的思考力や表現力を持つ人物が「自立した書き手」だと思います。「書く」ということは自分で考えたことをアウトプットして人に伝える方法のひとつです。人に何かを伝えることはどの仕事でも必要ですが、そのベースとなる力を身に着けていることが「自立した書き手」だと考えています。文章だけでなく、映像や音楽など多様な自己表現が可能な現代社会において、自己満足ではなく、自分が伝えたいことをきちんと相手に伝えるためのベースとなる考え方、方法を知っていることは学生にとって意義があると思います。


木村 「自立した書き手」とは、論理的思考力や表現力などのスキルを持ち、主体的に課題に取り組む力を身につけた人物だと捉えています。「自立した書き手」となることは、学生にとって、人間関係構築力や社会形成力、課題対応力なども培うことができるという意味でも意義があると考えます。私は大学院に入る前に社会人として働いていた経験があるのですが、書くことは社会で生きていくための力になると実感しています。


福山 私は、必要な支援のみを自分で判断して受けた上で、論理的な文章を書くために必要な構成・調査・執筆・校正などを自分で行うことのできる人物が「自立した書き手」だと考えています。"自立した"という部分からイメージすると、自分の力で無理やり全部やることだと思ってしまいがちですが、そうではありません。私自身も研究では生成AIなど、いろいろなツールを使うことがあります。身の回りにある適切な力を借りながら、最終的に自分の責任で良い文章を書ける人になってほしいと考えています。


西口 私も基本的には皆さんと同じように、「自立した書き手」とは論理的に考える力とそれを適切に表現する力を持つ人だと考えています。また、そうした能力を持つだけではなく、「書く」という行為に伴う自覚と責任を持つ人物でもあると捉えています。個人的なことでも社会的なことでも、自分で発信することに対して書き手として責任を持つことができ、必要に応じて周りの人の力やテクノロジーを適切に使える人が「自立した書き手」といえるのではないでしょうか。書くことによって現在の自分自身について理解を深めて自己認識を深め、自分にできること、他者からの協力や支援を必要とすることなどを冷静かつ客観的に判断することが可能になると思われます。また、社会に出たときには、多くの他者との関わりの中で、よりよいものを作り上げるために相手を説得したり協力を求めたりする必要があります。そのとき、書き手としての主体性を持っていることは、自分を支える周囲の人と生産的な関係を築く上でも重要になると思います。


ライティングセンターHP


ライティング教育・学修支援 vol.2