ライティングセンターでは、学部生向けに「スタディスキルセミナー(リポート執筆の基礎)」、大学院生向けに「論文執筆のためのアカデミックライティング」という正課授業を提供しており、2024年度には「スタディスキルセミナー(リポート執筆の応用演習)」を新設しました。第2回では、そうした授業の他、FDや学部連携などの取り組みについて話してもらいました。
正課授業であるライティング科目(学部)を担当。ライティングセンターでは対面指導などの運営を統括し、その他FDやゲスト講師を通じての他部課との連携、イベントの企画立案、研究など、さまざまな活動を行っている。
正課授業であるライティング科目(学部・大学院)を担当。ライティングセンターが提供する教育プログラムを中心に、正課授業の管理運営・企画・担当、学部教育の連携、動画教材の開発など正課内外の多くの活動に従事。また、ライティグ教育や個別支援に関する研究も行う。
ライティングセンター常駐スタッフ。対面指導の運営を担い、個別支援で学部生の対面指導をする他、教育指導員の研修、動画教材の開発・制作、広報活動、研究などに携わる。
関西学院大学大学院人間福祉研究科博士課程前期課程2年生。学部生が「自立した書き手」として成長できるようライティングセンターでサポートを行う。また、経験を積んだ教育指導員として、新人研修にも関わっている。
関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員をはじめ、本学院関係者の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務、立場を越えて語り合う場を創出することで、相互理解を促し、想いを共有します。
将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら
関西学院大学では、2020 年にライティングセンターを開設し、「自立した書き手」の育成に取り組んでいます。今回は、ライティング教育・学修支援をテーマにした座談会の様子を4回に分けてお届けします。
西口 「スタディスキルセミナー(リポート執筆の基礎)」は、大学での学びの土台となる学修スキルを身につける授業科目のひとつで、論理的に物事を考え、それを表現する力を身につけることをめざすプログラムです。リポートの執筆、なかでも論証型のリポートに焦点を当てながら、学術的な文章を書くために必要となる基礎的な知識とスキルを修得することをめざしています。論理的な考え方、組み立て方、論証の構造などについて、たくさん書くだけではなく、それを書き直す経験を通じて実践的に学び、授業の中で教員からフィードバックを受けながら、文章を書き上げるところが特徴です。授業は個別的かつ柔軟に対応できるように反転授業の方式で行っており、最大定員20名の少人数クラスです。学部生は毎回動画を視聴し、修得をめざす知識やスキルを事前に学びます。動画教材で事前学習した内容を踏まえた上で文章を書き、授業中に教員の指導のもと書き直します。教員の前で書き、その場でフィードバックをもらうことで、知識の定着をより円滑にしたり不要な行き詰まりをなくすことができるように工夫をしています。
福山 「スタディスキルセミナー(リポート執筆の基礎)」は学生に文章を書かせる回数が多いのが特徴ですね。学部生の中には宿題が多いと言う人もいますが、確実に力が身につくので、学期の終わりには「受けてよかった」という声をよく聞きます。毎学期、最終回の授業で、初回に書いた文章と最後に書いた文章を比較するワークを行っていますが、違いがよくわかります。初回では何も教えず、「アカデミックだと思う文章を書いてください」と文章を書かせます。実は学部生たちがイメージするアカデミックな文章について質問すると「主張を裏付ける根拠がある」など、授業で教える内容とそんなに違ってはいないんです。ですが、実際には根拠、つまり引用がある文章を初回に書く学生はほとんどおらず、頭ではわかっていても実際には書けないことがわかります。最終回の授業で自分で比較させてみると、「こんな文章をアカデミックだと思っていたのか」「1年生のうちにこの授業を履修してよかった」などの声が出ます。自分の成長を実感できているコメントを聞くと、授業の意義ややりがいを感じます。
■「スタディスキルセミナー(リポート執筆の基礎)」の授業風景
西口 たくさん書いてもらうので奮闘する学部生が多く、自分では成長が実感しにくい側面があるかもしれません。ですが、初回授業時に執筆した文章と授業最終回で執筆した文章は別人級に違います。学部生自らがよい点・悪い点について言葉にできるようになり、学術的な文章を執筆するためのルールや作法など知識面で理解できる幅が広がっているだけでなく、実際に書いた文章の質が変化するなどスキル面での向上もしています。授業を受けている際には不安感が大きくても、ほかの授業やゼミなどで書いた文章が「担当の先生から褒められた」と嬉しそうに報告してくれる学部生が例年います。授業担当者としては、学部生が自分自身と向き合いながら、知識やスキルの修得だけではなく、自己理解を深めたり、自己を成長させたりしている姿やその変化を見ることがやりがいです。
久保 私は授業には直接関わっていませんが、授業で書くリポートについて対面指導を通じた個別支援(以下、個別支援)を行うことがあります。何度も個別支援を活用してくれる学部生もおり、リポートを推敲していく過程を見る機会もありますが、福山先生や西口先生も言われた通り、最初と最後とでは見違えるような学部生の変化を実感します。初回のリポートからずっと相談に来ていた学生が、最後の2000字のリポートを書き上げたときなどは、私自身も嬉しいですね。伴走している気持ちになります。
木村 私も「スタディスキルセミナー(リポート執筆の基礎)」のリポートの個別支援に入ることは多いですね。個別支援では、どうすればよいのかを学部生と一緒に考えて、頭の中を整理できるようお手伝いします。対話を重視して、学部生自らが疑問を持ち、その根拠を考え、論理を組み立て文章に落とし込むまでの一連の流れを体験してもらえるように心掛けています。何を書けばよいのか分からなかった学生が、個別支援を通して自分が言いたいことを整理して書けるようになっていく、そんな成長を間近で見るとやりがいを感じます。
久保 最初のうちは、自分では120点の出来栄えのつもりで書いていても、先生からのコメントがそうではないことにビックリする学部生もいます。学生自身の理解と先生たちが求めるものとのギャップがあって、コメントを読むだけでは問題を解決できなかったり、コメントそのものが理解できない場合もあるようです。そういう場合は、ライティングセンターの個別支援は45分間なので、コメントの意味の説明など、わからないことを紐解きながら、じっくりと時間をかけて支援しています。
福山 授業でも、リポートに行き詰まったらライティングセンターを利用するよう促しています。少人数クラスとはいえ、どうしても授業内では1人を見てあげられる時間には限りがありますので、躓きが大きかったり、欠席があった学部生はセンターでしっかり見てもらうことを促すケースもあります。
福山 2024年度秋学期から、いよいよ「スタディスキルセミナー(リポート執筆の応用演習)」がはじまりますね。
西口 「スタディスキルセミナー(リポート執筆の応用演習)」は、「スタディスキルセミナー(リポート執筆の基礎)」の発展科目です。「リポート執筆の基礎」は、1学期という限られた期間で行うプログラムのため、どうしても授業内では扱いきれない内容があり、次のステップとしてもう少し発展した科目が必要だと感じていました。そこで、連続性のあるライティング教育プログラムの構築と提供をめざしたいと考えて「スタディスキルセミナー(リポート執筆の応用演習)」を新設することになりました。1年生から4年生までを対象とする全学科目として、どの学部でも、必要な人が必要なときに履修できるようにしています。
福山 「基礎」で書くリポートは2000字程度ですが、卒業論文になると学部によって違いはありますが1万~2万字を書くケースもあります。もちろん、授業で卒論のような長さの文章を書くのは難しいので、「応用演習」では5000字程度のリポートを書いてもらうことを検討しています。2000字程度のリポートなら割とサッと書ける学生でも、5000字、1万字になると2000字くらいの段落を組み合わせる形になり、もう1段階レベルが上がります。その組み合わせ方を教えるためにも、発展的な授業が必要でした。
西口 「リポート執筆の応用演習」では、「リポート執筆の基礎」で学修した内容を前提にしつつも、さらに発展的な内容として、文章構成方法や引用方法、図表の作成の仕方などを学ぶように設計しています。文章を書かせてフィードバックを伝えるというベースは「リポート執筆の基礎」と同じですが、たくさんの種類の文章を書かせる「リポート執筆の基礎」とは少し異なり、「リポート執筆の応用演習」では、文章を書くプロセスを再帰的に経験しながら、1本のリポートを完成させることをめざします。少し長めの文章で1つの内容を複数の章や段落で組み立てる方法を学んでおくと、卒業論文を執筆する準備ができるのではないかと思います。
福山 これまで授業に携わってきて、課題や今後取り組んでいきたいと思うことはありますか。
西口 「リポート執筆の基礎」については、2020年度から学期ごとに担当者で振り返りを行い、科目受講生の声を踏まえつつ改善を続けているため、現在のところ特に大きな課題を感じているわけではありません。こうした改善のプロセスは今後も継続しつつ、学習指導要領の改訂による中等教育内容の変化や生成AIなどテクノロジーの発展に伴う変化やその対応にも留意しながら、よりよい教育プログラムになるように努めていきたいと考えています。2024年度秋学期からはじまる「リポート執筆の応用演習」での取り組みを踏まえて、連続性のあるカリキュラムの開発や学習教材の開発も進めていきたいと考えています。
福山 そうですね。私も、「基礎」は開講以来相当な改善を続けてきて十分なクオリティになったと感じているため特に大きな課題はないと思います。一方で「応用演習」はまったくの手探りになるため、履修生と一緒にイチから作り上げていきたいと思っています。また、特に「基礎」で扱っている内容は多くの大学生が身につけた方がよい内容なのですが、より多くの学部生に履修してもらうにはどうすればよいか、その方策を検討したいと考えています。
福山 ライティングセンターでは、FD研修会やセミナーなど、正課授業や個別支援以外にもさまざまな活動を行っています。例えば、FDとしては、毎年新任教員研修でライティングセンターの紹介を行い、2022年度は神学部でアカデミックライティングに関する講演を行いました。セミナーとしては、年度初めのKG LIFEやSTART UP KSC!で図書館と連携して「周りと差がつく!リポート執筆のポイント ~図書館とライティングセンターの活用~」を開催していますが、満席の回もあるなど人気のセミナーになっています。また、授業を受講しなくてもオンデマンド形式で必要な内容を学べるように、現在、「リポートサポートシリーズ」という動画教材を制作中です。その他にも、体育会所属学生へのライティング支援や高等部との連携など多数の取り組みを行っています。学部や高等部との連携については、今後もさらに力を入れていきたいですね。
■図書館と連携してKG LIFEでのセミナーとして開催した「周りと差がつく!リポート執筆のポイント ~図書館とライティングセンターの活用~」
西口 全学への展開や学部連携には長期的に取り組んでいきたいと思っています。2021年度には経済学部から初年次教育の連携について相談を受けました。課題や要望を聞きながら、専門的な学習の土台となる基礎的な内容を学修できるプログラムを経済学部の方々と一緒に作り上げました。ライティングセンターのマンパワーに限りがあるため、まずはオンデマンドでライティング基礎講座を提供することとし、初年次学生向けの動画教材を作成・運用して「関学生のためのリポート執筆セミナー」として初年次科目連携を継続しています。また、2023年度には国際学部の「基礎演習」との連携を開始しました。学部連携に関しては、正課授業で用いている動画10本、経済学部との連携で制作した動画5本、現在制作中の「リポートサポートシリーズ」の3種類を活用しながら、それぞれのニーズや段階にあうものを拡充させていこうと考えています。ライティングセンターとして動画教材を提供することで、学部生は自分のタイミングで何回でも見ることができるようになるため、自習や復習など自律的な学習の機会にもつながるのではないかと思います。
久保 ライティングセンターを利用した学生から話を聞いたり、教職員同士の交流の中で噂を耳にしたりして、教職員の間で徐々にライティングセンターの認知が進んでいると感じます。
西口 実際の連携には至っていませんが、事前にヒアリングさせてほしいと相談を受けた学部もあります。経済学部との連携の成果として、他学部や他部署との連携の可能性も高まっているのかもしれません。
福山 高等部との連携は、試験的な取り組みとして進めている状態です。高等部には探究学習や読書科のようにリポートを書く場もあると聞いていますので、今後のあり方を探っているところです。
久保 23年度は、6名の高等部2年生にワークショップを2回行いました。高校生が探究学習のアウトプットとしてリポートを書くということで、論理的な文章の構成や、参考文献の引用などの部分でサポートをしました。高校生や担当の先生からは肯定的な反応をいただきましたが、学術論文を読んで引用することなど、高校生にとってハードルが高かった様子も見られました。いきなりアカデミックな文章を書くことは難しいですが、チャレンジを続けることで必ず上達すると思うので、高校生が学びや成長を感じられるサポートをしていきたいです。
福山 高等部から関西学院大学に進学する生徒は多いので、高等部生のレベルが上がると関学全体のレベル向上につながります。ライティングセンターとして支援できることがあれば、引き続き積極的に協力していきたいですね。