第3回では、ライティングセンターで行う個別支援の意義や、支援を担当する教育指導員の育成、今後の課題について話してもらいました。
正課授業であるライティング科目(学部)を担当。ライティングセンターでは対面指導などの運営を統括し、その他FDやゲスト講師を通じての他部課との連携、イベントの企画立案、研究など、さまざまな活動を行っている。
正課授業であるライティング科目(学部・大学院)を担当。ライティングセンターが提供する教育プログラムを中心に、正課授業の管理運営・企画・担当、学部教育の連携、動画教材の開発など正課内外の多くの活動に従事。また、ライティグ教育や個別支援に関する研究も行う。
ライティングセンター常駐スタッフ。対面指導の運営を担い、個別支援で学部生の対面指導をする他、教育指導員の研修、動画教材の開発・制作、広報活動、研究などに携わる。
関西学院大学大学院人間福祉研究科博士課程前期課程2年生。学部生が「自立した書き手」として成長できるようライティングセンターでサポートを行う。また、経験を積んだ教育指導員として、新人研修にも関わっている。
関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員をはじめ、本学院関係者の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務、立場を越えて語り合う場を創出することで、相互理解を促し、想いを共有します。
将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら
関西学院大学では、2020 年にライティングセンターを開設し、「自立した書き手」の育成に取り組んでいます。今回は、ライティング教育・学修支援をテーマにした座談会の様子を4回に分けてお届けします。
福山 ライティングセンターでは、対面指導を通じた個別支援(以下、個別支援) として、教育指導員の大学院生等から1対1でアドバイスを受けることができます。個別支援は1回45分。事前予約制で、可能なら文章を事前にメールで送ることになっていますが、送られてこないケースも散見されます。
久保 事前にリポートの提出がない場合が多いです。予約して来室するまでに提出してほしいものは2つあり、1つは相談内容を尋ねるアンケート、もう1つがリポートです。まだ書いていない場合は別として、書いている場合は提出してほしいと伝えていますが、実際にリポートを事前に出してくれる学部生は1割、アンケートは4割くらい。ですので、教育指導員は、相談内容も何もわからない状況で個別支援に入ることもあります。
木村 教育指導員としては、そこが面白く、また大変な面でもあります。本当にいろいろな学部生がいて、これまでに「何を書けばよいのかわからない」「リポートの書き方がわからない」「文章内容に一貫性があるか」などについて相談を受けました。リポートを書いてきた学部生に対しては、不安を聞いてコメントしたり、教育指導員の側からも改善点をアドバイスしたりしています。一方で、リポートを書いていない場合は、学部生の話を聞いてリポートに取り組めるようアドバイスしたり、ブレインストーミングをしながらリポートのテーマを一緒に考えたりしています。「何を書けばよいのかわからない」と相談に来た学部生が、個別支援後にスッキリとした表情になったことがとても印象に残っています。
西口 ただ、事前に文章を出すかどうかは、書き手本人の判断に任せています。自分の文章を共有するかどうかは書き手自身に選択の権利があります。"自立"という意味にはその点も含まれているので、これからも強要はしたくないところです。
■対面指導を通じた個別支援では、学生一人ひとりに合わせてアドバイスを行う
福山 支援する際に心掛けていることを教えてください。
木村 個別支援後にやるべきことが明確になるように、学部生の文章の問題を明らかにして、解決方法をアドバイスしています。45分間という限られた時間で、その学部生が何に困っているのかを捉えて、何かひとつでも持って帰ってもらえるようにしたいです。また、できていない点はもちろん、できている点もきちんと伝えるように意識しています。個別支援なので、個々の学部生のニーズにあったサポートができることに意義があると思います。
久保 学部、学年、授業によって相談内容は多岐にわたる上に、学部生それぞれの個性・特性も違うので、目の前にいる学部生にとってベストな支援をめざしています。学部生が家に帰って自分で修正できるように、Wordファイルでも紙のリポートの場合でも、何らかの形でコメントやアドバイスをお土産として渡せるように工夫しています。また、学部生は、困っていることやダメだと思っていることなど、自覚できていることを相談しますが、教育指導員の立場から見ると、その特定が必ずしも十分でないこともあります。本人がまだ感じられていない問題や課題を見つけてあげることが大切です。その部分は学部生が一人ではできないことなので、丁寧に支援したいですね。利用学部生がリポートを嫌いにならないように、伝え方も重要です。私ももちろんですが、センター職員も教育指導員も全員が表現に配慮しています。学部生たちが、このリポートはもっとよくなる、自分はもっと成長できると気づき、「がんばります!」と笑顔で帰ってくれることが嬉しいです。また、リピーターの学部生のリポートに、今までしてきたアドバイスがきちんと活かされていたりすると、「自立」への着実な成長を感じます。
福山 同じ課題で個別支援を繰り返し利用する学部生も多いですね。
久保 そうですね。45分間ですべての問題点を解決することは難しいので、ステップ・バイ・ステップで進めています。リピート率は45%くらいと高く、3回以上利用する学部生も多いです。一度来てくれたらライティングセンターのよさを理解してくれるのかなと思います。
福山 ライティングセンターをどのように使ってもらいたいと思いますか。
久保 どんな段階でもよいので、リポートや論文執筆で困ったら来てくれればよいと思います。大学は高校までと違って職員室に行けば先生に会えるわけではないので、何か困ったことがあったときに誰に聞けばいいのかわからない。そんなときに相談に乗ってあげられる場所でありたいと、私は思います。
福山 教育指導員任せになっては困りますが、自分できちんと1回考えているのであれば、どんな段階やどんな状態であっても、その人が必要であると感じるのであれば気軽に利用してほしいですね。
西口 よりよい書き手を育てるという理念がライティングセンターの根幹にあるので、リポートや論文執筆に困っている人だけでなく、自身が書いた文章をもっとよいものにしたいと考える人にもぜひ来てもらいたいですね。ライティングセンターという場所を"できない人が来る場所"にしてほしくないと、個人的には希望しています。ライティングセンターは、誰にでも開かれている場であってほしいと思っています。
福山 本学のライティングセンターは、主に大学院生が教育指導員を務めるのが特徴のひとつですが、個別支援は大学院生の成長にもつながります。人の文章を見ることによって自分の文章表現力が成長することもあります。
木村 いろいろな学部生の文章を見る中で自分にも活かせる点があったり、気づかなかったことに気づける力が身についたと思います。
福山 "教える"のではなく、"寄り添う"経験はそれほど多くないですよね。目の前のタスクを終わらせるために教えるのではなく、次に自分でできるようになるためには何をすべきか考えるのが"寄り添う"ということ。大学院生が将来どんなキャリアに進むのかに関わらず、誰かを支援するという経験を積むことはプラスになると考えられるため、ぜひ大学院生自身の成長にもつなげてほしいと思います。
久保 私たちは、添削ではなく、チュータリングをしています。文章に赤ペンを入れるだけなら知識があればできますが、それでは学部生の成長につながりません。教育指導員が「自立した書き手」の育成を目指すには、S+の評価をもらえる添削をするのではなく、書き手に必要な考え方、知識、スキルなどを一つずつ身につけさせていくことが大切です。本質的な問題を探して、どこから支援をはじめるかを考え、45分という短い時間の中で計画して伝えていく。個別支援ではそのようなかなり高度なことをしているので、教育指導員にとってもすごく力になると思います。
福山 教育指導員の育成に関しては、私が最初の設計を行いましたが、その後は久保さんをはじめとしたスタッフが改善しながら担当してくれています。教育指導員を育成する上で大切にしていることは何ですか。
久保 教育指導員の研修で必ず伝えていることは、学部生が何を書きたいのかと、どんなリポートにしたくて、なぜそうなっていないのかを一つひとつ丁寧に見ていくこと。その上で、学部生の考えや気持ちを尊重する支援を行えるようにすることです。高度なことではありますが、わからなくなれば自分たちも学部生と一緒に悩めばよいというスタンスを取っています。教育指導員はあくまでも先生ではないため、絶対に質問に答えなければいけないということはありません。丁寧に対話を通して話を引き出して、相手を否定せずアイデアを発展させるなどして、学部生が家で続きを書けるようにすればOKなんです。大学院生の専門分野も多様なので、自分が知っていることや学んできたことを活かしながら学部生に寄り添ってくれればよいと思います。
福山 教育指導員は、採用されてから実際に1人で個別支援を担当するまで、先輩指導員の個別支援の様子を何度か見学したり、ロールプレイをしたり、先輩と2人で支援に入るなど、しっかりと研修を行います。特にはじめて見た文章の課題をその場で読み取って、45分間の個別支援でどんなサポートをするのかを学部生と合意する導入の箇所は難しいのでトレーニングが必要です。
久保 研修は現在、最短で7回14時間ですが、もう一度ロールプレイをやりたい、もう少し文章を見る練習をしたいなど、教育指導員の希望を聞いてさらに研修を重ねることが多いです。研修をするのも楽しいですよ。教育指導員が学部生を支援してやりがいを感じるのと同様に、教育指導員の研修でも「前回よりロールプレイが上手くなっている!」などと、一人前になっていくのを実感することができます。
木村 ロールプレイでは、学部生側も教育指導員側の立場も両方を経験するので、とても勉強になります。私は教育指導員になって2年ですが、以前よりも研修が効率的になってきたと感じています。例えば、久保さんが、学部生の課題や改善点などを教育指導員が整理するシートを作成してくれました。そのシートを活用すれば、個別支援で取り組むべき課題の優先順位がつけやすくなります。自分のできていること・できていないことがよくわかって刺激にもなりますし、個別支援にも活かせるのでとても助かっています。
西口 これまでの話は教育指導員を採用した後の研修についてですが、その前段階として、学修支援者の養成をめざした大学院生向けの科目があります。それは「論文執筆のためのアカデミックライティング」で、どの研究科の大学院生でも受講できます。授業を受けていなくても教育指導員に応募できますが、履修した大学院生が教育指導員になって研修やOJTを通じて力をつけていくのが理想的なルートのひとつだと考えています。
■大学院生を対象にした科目「論文執筆のためのアカデミックライティング」
福山 この授業を受講していないと、大学院生でもリポートの構造をうまく組み立てられないこともありますね。もちろん一定の文章執筆レベルのある大学院生を採用するようにしていますが、未受講者については文章執筆に関する追加の研修を受けてもらっています。
西口 久保さんをはじめとしたスタッフに教育指導員の採用や研修内容の組み立てを担っていただいているので、授業を担当する教員としては、養成段階で少しでも研修の負担がなくなるように、教育指導員に興味関心をもっている大学院生の力量形成にも努めることができればと思っています。
福山 個別支援や教育指導員の育成について、課題や改善したいと思うことを教えてください。私としてはセンター内部での改善は毎年進めてきたつもりなので、今後は他大学のライティングセンターなどとの連携や交流を行って、教育指導員に新しい刺激を与えたいと思っています。
久保 教育指導員の育成についてですが、研究科によって特性が大きく異なることが見えてきました。例えば、同じリポートでも形式を重視する研究科もあれば、内容のオリジナリティを大切にする研究科もあります。同じ大学院生でも、マニュアル的な研修ではカバーできない部分があるので、補足の研修をどのように行うか考えていきたいと思います。
木村 私の課題は、教育指導員として学部生のよりよい支援を行っていくことです。そのためにも、今後も継続して研修などに参加したいと思います。研修で教育指導員同士が情報交換を行うことで、他の教育指導員も自分と同じような悩みを抱えていていることに気がついたり、自分が担当する個別支援でも取り入れたいと思うような発見があったりするので印象深い経験ができます。
■研修を通して、教育指導員同士の支援時の課題や知見の共有を行う
西口 教育指導員の育成に関して、学修支援者としての専門性を開発する研修プログラムや力量を高める学習教材の開発に取り組んでいきたいと考えています。また、基本的に個別支援に携わる人は任期のある職員や大学院生など、学修支援に携わる期間が限られている人も一定数いるので、共有された知見が蓄積されにくいという問題があります。全国的にみても教育指導員の育成は喫緊の課題だと思われます。他大学のライティングセンターとのネットワークを作り、お互いの優れた点を参考にできるような体制ができればよいと思います。