Challenge Stories
~私たちが未来のためにできること~

【座談会:ライティングセンター④ 学部連携や今後について】
2024.10.23公開

ライティング教育・学修支援 vol.4

最終回となる第4回では、ライティング教育のめざす姿や、そのために自分たちが大切にしていることについて話してもらいました。

  • ライティングセンター 教授
    福山 佑樹

    正課授業であるライティング科目(学部)を担当。ライティングセンターでは対面指導などの運営を統括し、その他FDやゲスト講師を通じての他部課との連携、イベントの企画立案、研究など、さまざまな活動を行っている。

  • ライティングセンター 准教授
    西口 啓太

    正課授業であるライティング科目(学部・大学院)を担当。ライティングセンターが提供する教育プログラムを中心に、正課授業の管理運営・企画・担当、学部教育の連携、動画教材の開発など正課内外の多くの活動に従事。また、ライティグ教育や個別支援に関する研究も行う。

  • ライティングセンター 契約助手
    久保 槙祐野

    ライティングセンター常駐スタッフ。対面指導の運営を担い、個別支援で学部生の対面指導をする他、教育指導員の研修、動画教材の開発・制作、広報活動、研究などに携わる。

  • 大学院生・ライティングセンター 教育指導員 ※取材当時
    木村 友紀

    関西学院大学大学院人間福祉研究科博士課程前期課程2年生。学部生が「自立した書き手」として成長できるようライティングセンターでサポートを行う。また、経験を積んだ教育指導員として、新人研修にも関わっている。

関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員をはじめ、本学院関係者の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務、立場を越えて語り合う場を創出することで、相互理解を促し、想いを共有します。


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら


関西学院大学では、2020 年にライティングセンターを開設し、「自立した書き手」の育成に取り組んでいます。今回は、ライティング教育・学修支援をテーマにした座談会の様子を4回に分けてお届けします。

◎2024年度は開設5周年の節目。今後の目標とは


福山 2024年度は、ライティングセンター開設5周年の節目となります。来年2月には、この5年間の歩みを紹介するイベントを開催し、学内外へライティングセンターの取り組み成果の周知を進めていきたいと考えています。授業と個別支援の双方をひとつのセンターで行っている例は少ないので、広く学外に取り組みを紹介できたらと思います。皆さんは、ライティングセンターとして今後どんな取り組みや挑戦をしたいですか。


西口 大学1年生に対するライティング教育は、初年次教育の一環として多くの大学で取り組まれていますが、入口から出口まで見据えた連続性のあるカリキュラムは十分に確立されていないところが多いのではないかと思います。5年間の取り組みと成果を踏まえて、今後は連続性のあるカリキュラム開発など教育プログラムの拡充に努めたいと考えています。本学でみられる問題は他大学でも起こりえるものだと思います。関西学院大学での取り組みが大学におけるライティング教育の問題解決の一助になるよう教育・研究に努め、知見が蓄積されていくことで、日本国内のライティング教育の一層の発展につながることを、研究者としては目指して取り組んでいきたいです。


木村 文章執筆に困ったときはもちろん、何か疑問を感じたり、もっとスキルを高めたいときなど、幅広くライティングセンターを活用してもらえるようにしていきたいと思っています。そのために、引き続き、ライティングセンター外との連携なども大切にしていけるとよいと思います。


久保 現在、学内公開用のオンデマンド教材「リポートサポートシリーズ」を制作しています。制作活動ももちろんですが、公開した後、どうしたら多くの学部生に届けられるかも課題です。どこにどう伝えれば皆が活用してくれるのか、学内の周知経路・広報経路を考える必要があると思います。大学からのお知らせだけでは見逃すことも多いと思いますので、色々な選択肢も加味して考えていきたいです。同様に、ライティングセンターの取り組みをより多くの人に知ってもらえるように広報活動に力を入れたいと思います。


福山 学習に関する熱意が高い入学前後のタイミングに、しっかりとライティングセンターの存在を知らせることが大切ですので、新入生向けのイベントには積極的に関わりセンターの認知を高められるようにしています。


西口 その点では、学部連携は続けていきたいですね。経済学部との連携では、新入生は4月からライティングセンターが提供するプログラムに参加します。経済学部の新入生約700人がライティングセンターの存在を知るきっかけとなり、そこから実際のセンターでの個別支援の利用に進むこともあると思います。


福山 授業では過去の受講生からの口コミなどで受講する比率が上がっています。それなりに負荷の高い授業ですが、他の学生にも勧めたいと思ってもらえるのは嬉しいですね。ところで、もっと長期的に考えたとき、関学のライティング教育がめざすべき方向性についてはどう考えますか。


木村 「自立した書き手」の支援、育成という考え方は、関西学院のスクールモットーに合致しているように思います。関西学院のスクールモットー"Mastery for Service"に基づいて、学生の自律的な学習態度を育んでいくライティング教育や学修支援を行うことが、今後めざすべき方向性、在りたい姿ではないかと考えます。


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福山 理想的には、関西学院大学の1年生全員が、1年生の間に「リポート執筆の基礎」を受けた学部生と同じだけのライティング力を身につけられるように支援できればと思います。そうすることで、学部の専門的な授業やゼミナールではより「専門性の高い内容」の教授・学習活動に注力できるようになると考えられますし、「リポートの書き方がわからない」ことが原因で単位を落とす学部生がいなくなると考えられます。


西口 さまざまなタイプの学部生がいるので、教授・学習活動に関しては、複数の選択肢を用意することが大切だと思います。授業を通じて学びたい学生もいれば、もっと他者とコミュニケーションを取りながら個別支援を通じて力をつけたい学部生もいるでしょうし、自立して学べる学部生にはオンデマンド講座も有効に働く可能性があると思います。そうした選択肢を提供できるようにしたいですね。また、中等教育での学習内容の変化や入試制度の多様化で入学する学部生が変化する可能性も高いです。そのような変化を見据えてライティングセンターの授業や教育プログラムを作り替えていく必要があると思います。


福山 最近では生成AIで論文やリポートを書く学部生もいることなどが問題になっていますが、生成AIの利用についてはどう思いますか。


木村 教育指導員としてAIの書いたものとそうじゃないものを比べてみたことがありますが、もっと技術が進めば誰が書いたか見破るのが難しくなりそうです。


西口 書くことと生成AIは関係が大きいので見過ごすことはできないとは思います。ただ、まだわからないことも多いため、関学のライティングセンターとして生成AIにどう関わるかはまだ明確には言えません。今後の動向など、常に注意して見ていかなければならないと思います。


久保 生成AIに限らず、どんどん新しいテクノロジーが生まれています。変化の激しい社会の中で、これまでとは違う「新しい道具」を活用しながら活動に取り組むという能力が、今後の社会では必要になってくるでしょう。生成AIを使ってもいい・悪いという枠組みでの議論ではなく、そのような新しい学びや能力にフォーカスした学習環境や取り組みがあれば、なお面白いのかなと考えています。


福山 例えばですが、文章を読み込ませれば問題点を適切に指摘するような新しいツールがあれば、現状定員が20人になっている授業を40人まで拡大したり、オンデマンド授業でもリポートの添削ができるかもしれません。新しい技術によって、ライティグ教育が底上げされる可能性もありますね。生成AIの動向については今後も注目していきたいです。


◎教育も研究もできるライティングセンターとして


福山 最後に、自分自身として成長したいことや大切にしたいことを教えてください。私の場合は、個別支援においては、主役となる契約助手・教育指導員が能力を発揮できる環境を整えることを大切にしていきたいと思います。また、授業担当教員としては、自分でしっかり考えさせるというところに注力して「自立した書き手」の育成を引き続きめざしていきたいと思います。


木村 教育指導員としては、学部生に寄り添って課題解決に向けて一緒に取り組める指導員でありたいと考えます。また、ライティングセンターで学んだことを次に活かしていきたいです。博士課程後期課程に進みたいと考えているので、必ず活かされると思います。


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久保 ライティングセンターを利用した学部生にインタビューした際に「リポートを書くのが楽しくなった」「ニュースを見るのが好きになった」という声が聞けました。個別支援での経験を通じて、興味や関心が広がったのだと思います。学部生が、新しいことを学ぶこと、成長することを楽しいと思ってもらえるような環境をデザインできる人でありたいです。そのために、自分自身も新しいことに挑戦して、学びの多い日々を過ごせるように、日頃から備えておきたいと思います。


西口 私は、これまでアメリカのライティング教育や学修支援について研究を続けてきて、このライティングセンターに着任してから教育プログラムの運営や企画開発を担当しています。4年経った今、日本で適用できること、できないことも少しずつ見えてきたように思います。今後も引き続き教育・研究を続けながら自分自身の教育能力を高め、プログラムの改善や開発に取り組み、「書くこと」や学修支援に関する教育方法を改善していきたいと思っています。そのためにも、学内の教職員、教育指導員、学外の関係者と生産的な協力関係を築けるように努めたいと考えています。


福山 本学のライティングセンターは、学部生・大学院生教育だけでなく、研究も積極的に行っています。今までは、オンライン授業の学習効果を検証するといったような授業での研究が中心でしたが、今後は対面指導や研修などライティングセンターでの研究活動も行いたいですね。現在も研究活動に積極的なメンバーが揃っていますので、関学のライティングセンターは研究も頑張っているなという認識を、学内外から持ってもらえるようになればと思います。


■学修支援はもちろん、ライティングに関する教育・研究を通じて、学内外に存在感を示せるライティングセンターをめざしていく


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ライティングセンターHP


ライティング教育・学修支援 vol.1