Challenge Stories
~私たちが未来のためにできること~

~VL科目と演習科目の両輪で本プログラムは完成する~
2025.03.25公開

AI活用人材育成プログラム vol.3

『AI活用人材育成プログラム』では、6科目を完全e-Learningの「バーチャルラーニング(VL)科目」で学んだ後、実践演習や発展演習をPBL型の対面授業で行っています。第3回では、そうした実践的な演習科目の特長や魅力などについて、それぞれの立場から話してもらいました。

  • 副学長・情報化推進機構長・AI活用人材育成プログラム統括・工学部教授
    巳波 弘佳

    2017年の構想検討開始時点から、プロジェクト統括として企画・設計・構築・運用まですべてに関わってきた。研究分野は情報科学。研究対象は、AIをはじめ、情報科学の理論研究からさまざまなシステムの実用化まで幅広い。

  • 共通教育センター教授
    西野 均

    日本IBM研究開発部門で新規ビジネス開発部長などを歴任。IBM時代からAI活用人材育成プログラムの開発に携わり、2019年度より現職。現在、バーチャルラーニング(VL)科目のサポートを行いつつ、対面授業をメインに担当している。

  • 教務機構事務部教務課
    中江 翔平

    キャリア採用で2021年度に入職し、2022年度からAI活用人材育成プログラムを担当。システムへの学生情報の登録や学生からの質問への回答のほか、演習科目の履修者数増加のためのイベント企画などを行う。

  • 教務機構事務部教務課
    冨永 彩友美

    2022年度に入職し、2023年度からAI活用人材育成プログラムを担当。履修者を増やすために広報やイベントなどの取り組みに注力している。本学の学部生だった頃にプログラムを受講したことがある。

関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員をはじめ、本学院関係者の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務、立場を越えて語り合う場を創出することで、相互理解を促し、想いを共有します。


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら


今回のテーマは、2019年度から全学部生を対象に提供している『AI活用人材育成プログラム』です。本プログラムに関わる教職員たちに、プログラム開発の経緯や現在、そしてこれからについて語り合ってもらいましたので、その様子を5回に渡ってご紹介します。

VL科目で基礎を固めたあと、演習で実践的な学びを深める


巳波 VL科目で基本的な知識やスキルを修得した学生を対象に、ビジネス現場でも現れる題材を扱った実践的な演習や、企業・自治体などの実際の課題に対してソリューションを提案するPBLを対面授業で行っています。


西野 AI活用人材を育成するためには、どうしても実践的な演習が必要なんですね。でも、PBLe-Learningで行うのはなかなか難しい。そのうちに、例えば1人の学生に対してAI56人の架空の学生を用意して、オンライン上でグループワークする仕組みが開発されるかもしれませんが(笑)。e-Learningで課題解決型の授業を行えるか、それで演習の効果がだせるかは、まだまだ考えないといけないと思います。


巳波 現在、PBL型の対面授業には「AI活用アプリケーションデザイン実践演習」「AI活用データサイエンス実践演習」「AI活用発展演習Ⅰ」「AI活用発展演習Ⅱ」の4つがありますね。それぞれについて簡単に説明していただけますか。


西野 AI活用アプリケーションデザイン実践演習」では、AIを実際に使ってみて理解した上で、デザイン思考を用いて新しいアイデアを生み出す方法を学びます。最近は生成AI系のプロンプトのつくり方なども取り上げました。「AI活用データサイエンス実践演習」ではSPSSモデラーを用いて実際にデータを分析します。「AI活用アプリケーションデザイン実践演習」はデザイン思考を学ぶのに対し、「AI活用データサイエンス実践演習」ではデータ分析によって相手に説明して納得してもらう手法を身につけることができます。ただ「こんなことやりたい」「世の中こうなっています」と話すだけでなく、客観的なデータをもとにした分析結果を提示することで説得力が上がるんですね。もちろん、資料やシナリオ、アジェンダのつくり方など、相手に効果的に伝えるためのさまざまな方法も学びます。そして、「AI活用発展演習」「AI活用発展演習」は、プログラムの集大成として、それまでに学んだことを利用して、実際の社会や企業の課題解決に取り組むものとなっています。


■PBL型の対面授業では、受講生たちが議論し学び合う


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巳波 完全e-LearningVL科目で基本的な知識やスキルを身につけ、それを活用してPBL型の対面授業で実践的に学びを深める。この両方をやることに価値があり、それが本学の『AI活用人材育成プログラム』の強みです。PBL型の授業を構築するにあたって、苦労されたことは何でしょうか。


西野 難しいのはさまざまな学部の学生がいるということです。皆さんにストンッと納得してもらえるように、わかりやすい教材づくりを心がけています。というのも、知識やスキルがバラバラのままグループで議論すると、単なるアイデアコンテストになってしまうからです。ある程度の共通した知識やスキルを持ってはじめて、バックグラウンドや専門の異なる学生が一緒になって課題解決に取り組め、意味のある提案ができるようになります。そのことを体験・理解しながら、ビジネス的な提案、創造的な提案ができる力を身につけてほしいと思っています。


◎学生たちの提案に、企業・自治体からも高い評価


中江 AI活用発展演習Ⅰ・Ⅱ」では文理共通のよさが顕著に出ていると感じました。例えば文系の学生がアイデアを出したり、理系の学生が技術的な面を担当したりと、それぞれの個性や得意分野を活かしながら企業や自治体からの課題に対してチームとなって取り組んでいたからです。文系・理系が混ざるメリットがよく表れていて、提案も非常に興味深いものばかりでした。中には企業・自治体のご担当者が驚くようなものもありましたね。発展演習は4日間の集中講義なのですが、短期間でよくここまで作り込めるものだといつも感心しています。


■「AI活用発展演習Ⅰ」で学生が企業にプレゼンする様子


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冨永 私が印象に残っているのは、ある自治体からの課題で、「若者が規約を読まずに商品購入したところ高額請求を受けてしまうような事態が増えているが、それを回避できるような解決手段はないか」というものでした 。商品購入時に規約が設けられていることがありますが、規約って長いので読まない若者も多いんですね。それを解決するために、学生たちは生成AIに規約の文章を覚えさせて、例えば「この商品のクーリングオフ期間は?」と質問するとパッと答えてくれるという仕組みを開発しました。こういう仕組みがあるとありがたいですし、実現すれば助かる人もいるのではないでしょうか。学生の発表とは思えないくらいハイレベルでした。


西野 VL科目でデザイン思考の基礎について学んでおり、演習ではその知識も活かしてユーザーインタビューなどでユーザーに寄り添って課題を理解し解決しようと試みます。また演習までの段階で、学生たちはアプリケーションやホームページのプロトタイプをつくる技術も身につけており、これらも駆使して提案を考え発表します。資料だけでなく試作品まで出てくると、非常に説得力がありますよね。「AI活用入門」からはじまって、いろいろな授業や演習を体系的に学んできたからこそ、4日間の集中講義でここまで質の高い学びができるのです。


巳波 PBLはいろいろな大学で導入されていて花盛りですが、アイデアコンテストに終わってしまうものが多いなか、ここまで考えてつくり込まれた科目はないと思っています。本学ではVL科目での学びとPBLを組み合わせて『AI活用人材育成プログラム』を設計しているからこそ、効果的なものができているのです。プログラミングなどの情報系スキルを学ぶだけでなく、デザイン思考などのスキルも身につけられるので、より実社会に即しているといえるでしょう。これまでに「AI活用発展演習Ⅰ・Ⅱ」の発表がきっかけとなり、自治体・企業・本学の3者での共同プロジェクトがスタートし、実証実験にまで至ったものもありました。


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中江 AI活用発展演習Ⅰ・Ⅱ」の最終日、学生たちが課題解決策を発表する場には企業や自治体の担当者はもちろん、上役の方々も参加してくださいます。そこからも企業や自治体の皆さまが『AI活用人材育成プログラム』を高く評価していただいていることを感じますね。また発展演習では、毎回ご協力いただく企業・自治体から出される課題が変わり、それによって学生たちはリアリティのある課題に挑むことができています。でも、この課題を見つけ出し続けるのが大変で、毎回、先生方は見えないところで奮闘されているんです。


西野 世の中はどんどん変わっていきます。AIの技術も毎年新しいものが生まれています。それを追随しないと演習は成り立ちません。そこが難しい。発展演習でも生成AI関係など新しい技術トレンドに関わるテーマが増えてきています。それに合わせて、2023年度までの「AI活用アプリケーションデザイン実践演習」では生成AIはあまり取り扱っていませんでしたが、2024年度の春学期から生成AIを扱う授業回を1コマ増やし、秋学期から2コマに増やしました。アップデートは大変ですが必須ですね。


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巳波 私も文科省を中心としたデータサイエンス・AI教育のコンソーシアムに関わっていますが、本当にアップデートが大変です。特に生成AIが社会に広がる前と後とでは世界が変わった感じがします。国でも大変なのに、一つの大学が追随していくことはまったく容易ではありません。でも、5年前や10年前と同じことをやっていては社会で通用しません。教材や教育方法のアップデートは不断にやっていきたいと思っています。


西野 ただ実はAIというのは、今まで認識しかできなかったものが、創造できるようになり、推論できるようになり......と、少しずつできることが増えてきてはいるものの、中身の基本的な仕組みとしては大きく変わっていません。なので、今、仕組みを理解しておけば、理系・文系関係なく今後の新しいものについていきやすくなる。学生のうちに、しっかりこの仕組みを理解しておくのは将来大きなアドバンテージになるでしょう。


AI活用人材育成プログラムvol,4 はこちら


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら