医療技術を高める症例検討プラットフォーム「e-casebook」を運営
経営戦略研究科(IBA)修了生の菅原俊子さんが代表取締役を務めるベンチャー企業が、小規模ながらも未来を拓く大きな可能性を秘めた企業を発掘しようと開催されているForbes Japan主催「SMALL GIANTS AWARD2019-2020」の関西大会で、大賞を受賞しました。
受賞したのは、医療向けのシステム開発を手掛ける会社「ハート・オーガナイゼーション」(大阪市淀川区)。ウェブ上で医師同士が自らの経験や技術、情報を共有、相談、検討したり、研究会を開いたりでき、互いの医療技術を高め合う症例検討プラットフォーム「e-casebook」を運営している。現在の会員数は約1万人で、その約半数が海外の医師で、国家間、地域間、熟練者と若手との間にある格差を是正し、医療技術の底上げに寄与しているとして評価されました。
「SMALL GIANTS AWARD」は、売上100億円未満、従業員数500人以下、創業10年以上の企業を対象に、会社の規模にかかわらず、地域を盛り立てる取り組みや独自のネットワークを構築したり、持続性を考えた取り組みをしたりするなど、小さいけれど大きな可能性を秘めた企業を顕彰しようと始まりました。今年で3回目。Forbes Japanのアドバイザリーボードから推薦された企業を3つの地域で大賞を決定し、各地域で大賞を受賞した企業により、2020年1月に決勝が行われます。
会員数約1万人、海外が約半数
医療の格差是正、技術の底上げに寄与
菅原さんは外資系製薬会社での勤務を経て、2000年に病院の手術室と会場をライブ中継し、手術をしている先生から技術を学んだり、ディスカッションをしたりする研究会の事務局業務を個人事業として始め、2004年に法人化しました。仕事は順調に増えたものの、事務局業務を受託するという業務形態では、会社としての成長が難しいという経営上の課題があり、ビジネスモデルを転換するという目的を持って、2009年にIBA(関西学院大学大学院経営戦略研究科)に入学し、2011年に修了しました。IBAで必須科目として情報システムを学ぶ機会があったことが、今回評価されたシステム「e-casebook」を開発するきっかけの一つとなりました。
従来、難しい症例や珍しい症例が見つかり、専門医が不在で同じ病院内でどのように治療するのかといった相談を、違う病院の専門医に相談する際には、CTやMRIといった医用画像をディスク(CDR)などに入れ宅配便で送り、そのうえで電話で相談・回答するという方法が取られ手間がかかっていました。そこで、Web上で医師が安心して簡単に症例を共有しながらディスカッションできる仕組みとして『e-casebook』が開発されました。WEB上で見ることの出来なかった医用画像を見られるようにすることで、医師たちが世界中の医師の叡智を募ることができるようになりました。今では1万人以上の医師が登録。今年4月からは手術のライブ配信ができるようになりました。現在は循環器系のみですが、今後は分野を広げていく予定です。
IBAでの学びについて、菅原さんは、「研究課題として取り組んでいた、財務諸表上に表れにくい企業の社会性をどう評価していくかという研究が、まさに社会における医師の課題の解決や医療の底上げを目標としている現在の取り組みにつながりました。IBAで学んだことで、新しい世界や視野が広がり、意思決定の確度を上げていけたことが一番の収穫です」と話しています。