経済、ビジネス、社会、文化をテーマに、4高校の生徒が発表
関西学院大学は1月25日、「日本に移民を受け入れるべきか」をテーマに、ドイツと米国の外交官による特別講演と高校生による公開討論会を西宮上ケ原キャンパス中央講堂で開催しました。EUインスティテュート関西(神戸大学・関西学院大学・大阪大学)と、兵庫県立の姫路西、長田の両高等学校と関西学院、関西学院千里国際の両高等部4校との共催で、4校の高校生たちは外交官の話に耳を傾けた後、移民を受け入れることの賛否について議論しました。
ドイツ総領事「多様な背景を持つ移民が多い」
前半は、「各国の移民と多文化主義について」と題し、ヴェルナー・ケーラー・ドイツ連邦共和国総領事と、アリシア・エドワーズ・アメリカ合衆国総領事館広報担当が講演。ケーラーさんは、ドイツには歴史的にポーランドからの移民が多く、第二次世界大戦後に復興を担ったのがイタリアやギリシア、スペイン、ユーゴスラビアからの移民だったことを紹介し、国籍別の外国人在住者数を表で示しながら、「多様な背景を持つ移民が多い」と説明しました。日本と同様に、人口減少が進んでおり、今後、年間22万人の移民を受け入れても減少が止まらないと語りかけ、そのうえで、ドイツでは移民を保護する法制度が充実していることを説明しました。
米国総領事館広報担当「多彩なバックグラウンドを持つ人の方に可能性」
エドワーズさんは、米国のアフリカ系(13%)、ヒスパニック系(17%)、ネイティブアメリカン(2%)の割合などをクイズ形式で高校生に質問し、そのうえで「2055年にはアジア系が一番多くなる」と予測。総収益によるランキング「フォーチュン500」に掲載の企業のうち40%が移民もしくは移民の子によって設立されていると説明し、教育でもビジネスでも多彩なバックグラウンドを持つ人の方に可能性があると指摘しました。移民で活躍する人物として、グーグルのセルゲイ・ブリン(ソ連)、テスラのイーロン・マスク(南アフリカ)、ペプシコ初の女性CEOインドラ・ヌーイ(インド)、オルブライト国務長官(チェコ)らをあげる一方、「世論調査では、人種と民族の多様性が国家にいい影響を与えているという答えが多いが、民族的平等が実現されているかについては40%以上が不足していると答えている」と紹介しました。
高校生からは、「ドイツでのイスラム教系移民への排斥の動き」などに質問が出され、ケーラーさんは、そのような動きがあることを認めながらも、「2011年にドイツ大統領はイスラムもドイツの正式な一部であるとの談話を発表し、イスラムの権利を認めた。その談話の内容自体が議論を呼んだ難しい問題」などと説明しました。
受け入れには「賛成」多く 技能実習制度には疑問も
講演を受けた後半の高校生公開討論会には、4校の生徒が登壇。アンナ・シュラーデ・関西学院大学産業研究所准教授の司会のもと、関西学院高等部が経済、姫路西高校はビジネス、千里国際高等部は社会、長田高校の発表では文化をテーマに、移民のメリット、デメリットについて各校で調査した内容を発表しました。
関西学院高等部は、メリットとして労働人口の維持、税収の安定を挙げ、デメリットとしては移民にかかる社会保障プログラムの費用がかさむことを紹介。労働人口を増やすより、生産性を挙げるべきとし、結論としては、短期的には社会保障プログラムのコストがかさむものの長期的にはコストを利益が上回るので移民に賛成としました。
姫路西高校は、デメリットとして企業の公用語が英語でないため非日本語話者が働きにくい環境であることを指摘。外国人の離職率が高く、外国人労働者を採用するコストが高くつくことを挙げました。メリットとしては、日本のGDPが先進国の中で低いなか、単純作業を移民に託し、高付加価値を伴う高度な仕事を日本人が担えるとし、企業のグローバル化が避けられないなか、受け入れには賛成としました。
千里国際高等部は、問題点として、外国人技能実習生制度で実習生が日本来るまでの費用と日本で得る収入が見合わず、人権侵害や労働関係法令違反の実態があると説明する一方、留学生や高度外国人人材、難民の現状にもふれ、社会的な観点から受け入れに様々な障壁があると指摘。そのうえで移民が孤立しないための施策も紹介し、結論としては、高度人材の受け入れは賛成だが、技能実習制度は見直しが必要とし、「日本には外国人労働者をティッシュペーパーのように扱い、使い捨てにする考え方がある」というテンプル大学教授の言葉を最後に紹介しました。
長田高校は、受け入れる難しさの例として、地域のお祭りや、日本語が中心の防災・避難訓練などの事例、コミュニティの掲示板、公共交通機関、市役所などの外国語表示が統一されていないことを指摘。一方で、翻訳機の機能も進化し使いやすくなり、避難・防災訓練では日本語を話せる移民を通じて趣旨や内容を説明し、公共機関などの外国語表示もその地域に多い人たちの外国語表示を増やせば周知を図れると紹介し、受け入れに賛成としました。
その後の自由討論では、会場の約130人の高校生が「賛成」「反対」の立場に割り振られ、意見を交換しました。