Challenge Stories
~私たちが未来のためにできること~

~学生たちのキャリア観の変化と主体性の育み方~
2023.02.22公開

「一人ひとりに寄り添う」関西学院大学のキャリア支援 vol.02

時代の変化に伴い、学生たちの価値観や考え方も変わってきています。第2回目は、学生たちのキャリア観の変化にキャリアセンターとしてどう対応していくべきかや、多くの企業から求められる「主体性」を育むにはどうすべきかについて議論を交わしました。

  • 西宮上ケ原・梅田キャンパス キャリアセンター
    犬伏 宏樹

    中学部から関西学院で学び、大学卒業後、10年間テレビ局で報道記者などを経験。2020年に入職し、キャリアセンターの学生支援グループに配属。キャリアガイダンスや企業招聘イベントなどの企画、KGキャリアチャンネル運営などを担当。

  • 経済学部事務室
    小山 藍

    2008年に新卒で入職し、国際教育・協力センターを経て、2014年からキャリアセンターで、キャリア教育担当、調査分析グループで進路調査等を経験し、キャリア教育プログラムの再構築、キャリアガイダンスなどの企画・運営を担う。在籍時に産休・育休も取得。2022年4月より現職。

  • 西宮上ケ原キャンパス キャリアセンター
    石橋 將広

    本学卒業後、2010年に新卒で入職し、人間福祉学部事務室に配属。2017年に、教務機構に異動となり、ラーニングコモンズ、ライティングセンターの設置、業務効率化推進PJ定期試験PJリーダーなどを担う。2022年4月より現職。キャリア教育を担当。

  • 西宮上ケ原キャンパス キャリアセンター
    村田 晋作

    出版社で約10年間、教科書編集を経験。2019年に入職し、キャリアセンターに配属。調査分析企業連携グループで、キャリアセンター広報、キャリア支援システム運用管理、データ収集・分析などを担い、キャリア支援のDX化にも尽力。

  • 神戸三田キャンパス キャリアセンター
    國頭 貫也

    関西の経済団体で11年間勤務し、2013年に入職。国際教育・協力センターで留学プログラムの開発、外国人留学生の受け入れ業務等を担当。2022年4月より現職。主に理系学生と外国人留学生等のキャリア・就職支援を担当。

将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)の実現には、教職員たちの強いつながりが不可欠です。KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務を横断して語り合う場を創出することで、教職員間の相互理解を促し、想いを共有します。


将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら


今回は、長期戦略テーマ『「質の高い就労 ― 学生が自ら希望する最適な就職・進路へ踏み出す」の実現』に取り組むキャリアセンターの5名の現・元職員参加のもと、「関西学院のキャリア支援」をテーマに座談会を開催しましたので、その内容を4回に分けてお届けします。


『「一人ひとりに寄り添う」関西学院大学のキャリア支援 vol.01』はこちら



キャリア観の変化にどう対応し、考える基盤をどう身につけさせるか


村田:かつて新卒での就職先は「生涯の就職先」と捉える人が多かったと思いますが、今はそう捉える学生はあまりいません。新卒の就職先のことを「ファーストキャリア」と称するようになっており、転職前提で就職活動に取り組む学生が増えています。そのような学生たちに、入社した企業に40年勤めあげることを前提とした価値観でアドバイスをしても響きません。今の学生の価値観に沿った助言が求められていると感じています。
その一方で、関学生の就職先で最も多いのは、昨年も今年も国家公務員なんです。地方公務員も微増しています。SNSで攻撃を受けることを避けるなど、良い意味でも悪い意味でも「目立ちたくない」というのがZ世代と呼ばれる若者の特徴の一つだと聞いたことがあります。そのようなメンタリティや考えを持っているので、就職先も安定した公務員を選ぶのかなと思います。
進路・就職の状況についてはこちら


小山:最短で答えを求める傾向が強い世代と言われる一面が、キャリア観にも出ている気がします。何が基準かわからない企業の採用試験・面接でダメだと判断されても、自分は何がいけなかったのかわからない。なので、筆記試験で一定のステップまでは合格が判断される公務員をめざす、ように、学生たちは明確な物差しを求める傾向が強くなっているのではないかと感じます。


犬伏:ES(エントリーシート)作成の際にも、手取り足取り答えを教えてほしいという学生は多いです。ただ、我々の支援のスタンスは、学生自身に自らの言葉で考え出してもらうことを重視します。一方で、外部の就職支援サービスでは、端的に答えを教えてくれ、ESもデータで送ればきれいに書き直して返してくれるものもあるようです。
昨年、ある学生がESを見てくださいと相談に来てくれました。気になる部分について、「こう書くべき」という助言ではなく、「なぜこう書いたのか」「あなたのどのような思いがこの表現に至ったのか」というように問いかけながら進めていくと、「なんて書いていいのかを教えてください」「ここではなく、外部団体に見てもらった方が良かった」と言われ、正直なところショックを受けました。自分の支援方針が本当にこれでいいのかと悩みましたが、約1カ月後にその学生とたまたま廊下で会ったとき、「ESは受かりましたが、そのあと面接で、犬伏さんが突っ込んでくれたところを深掘りされて答えられませんでした。あのとき指摘されたことに向き合っておくべきでした」と話してくれました。犬伏②.jpg
ひとまず良い就職先に決まればいいという短期的な視点ではなく、就職後の長い人生を見据えて、「自身で考える」基盤を醸成しておくことが大事になると思います。この基盤をつくるのはとても時間がかかり大変ですが、大切にしていきたいし、我々だからこそ寄り添える部分だと感じています。



石橋:そうですね。大学がやるべきことは、単に答えを教えることではなく、「自身で考える力」をどのように身につけさせるかだと思います。一方で、学生と接していると、とにかく短時間で答えが欲しいという「タイパ・コスパ」という価値観を強く感じます。インターネット等から情報がすぐ手に入る環境で育ったからかもしれませんが、犬伏さんのエピソードのようなギャップを突き詰めていくと、やはり時間をかけて、自分自身と向き合い、自ら考える習慣をつけることが重要であることに気づけると思います。
そのあたりをキャリア教育でも特に重視しています。森キャリアセンター長は、起業や転職の経験も豊富で、キャリア教育科目の講師も務めていますが、授業の中で提示される問いに対して直接的な答えを言いません。各業界で活躍されている社会人・卒業生からお話を伺うスタイルの授業も多くありますが、授業内のやりとりを通じて学生が瞬間的に考えることや、卒業生との対話で出てくるものを学生たちがどう感じるのかをとても大事にしています。様々な価値観に触れ、自分自身で考える習慣をつけることの重要性をどう伝えるかが、キャリア教育の一番のベースになると思っています。 


國頭:理系学生が多い神戸三田キャンパス(KSC)においてもキャリア観の多様化を感じます。これまでは大手志向が強かったのですが、昨今は起業に関する相談を受けることも増えてきました。 KSCでは、「ベンチャービジネス演習」や「ベンチャー起業家講座」等の文理の境界を越えたアントレプレナー育成プログラムを提供しています。
KSCにおける「アントレプレナー育成プログラム」についてはこちら
さらに、2025年にはキャンパスに隣接する場所にインキュベーション施設を開設する予定です。キャリアセンターとしても起業家育成に向けて、学内関係部署と連携しつつ情報提供と支援を一層強化していかねばならないと思っています。アントレプレナーシップという考え方は以前にもまして重要になってきていますし、一般企業に就職したとしても新規事業開発やイントレプレナーなど、新たなモノ・サービスを生み出す人材の育成が求められている時代です。起業をキャリアの選択肢の一つに入れていく重要なステージにあると思っています。ベンチャー企業家講座.jpg
また、別の視点では、海外での就職に対する支援強化を考えなくてはいけません。国内市場の縮小は、数十年来言われている話です。グローバルな視点での就職がこれまで以上に現実的な選択肢になってくると見ています。



石橋:今はキャリア教育とキャリア支援が密接に連動していない部分があります。学生が1年生のときにこれをして、2年生ではこれに取り組み、3年生でこの支援を受けて、就職活動につなげていく、もっと言えば就職したあとの人生も踏まえたキャリアプランの流れがなかなかイメージできていない現状があります。
これを見える化するために"学修ポートフォリオ"という取り組みがあります。学修ポートフォリオは、学習履歴に加え、学生が大学生活をどう過ごしているのかを自身で定期的に記録することで、自分自身の行動や成長を振り返ったり、支援者が記録内容を見てさらなる成長を促すために活用できるツールです。これを整備していけば学生にとってメリットになるだけでなく、企業も学生の成長過程を知ることができるようになります。今後、どうすれば学生たちがこれをきちんと記録してくれるようになるのか、個人的に課題だと考えています。石橋③.jpg


村田:考え方やキャリア観の変化は、時代背景などの要因で必然的に起きることです。我々は、彼らの価値観をポジティブに捉えて対応するべきです。目立つことを避ける、不正解を避けるというのは、言い換えればコミュニケーションが上手で、共感力も高いということ。そこは彼らの強みとして捉えた上で、望む進路に進むために、目立ってでも、間違っていても、自分自身で考え行動することが必要なのであれば、それをうまく伝えることができればと思います。


 


社会が求める「主体性」を育むために、時には背中を押す必要もある


村田:多くの企業は、「主体性のある人材」を求めていますし、我々もキャリア支援の中で、再三、「主体的に取り組もう」という話を学生にしています。しかし、主体的に取り組める学生はキャリアセンターに言われるまでもなく、すでに行動しています。そこが我々のキャリア支援の在り方の矛盾だと個人的に感じています。
とはいえ、主体性はそう簡単に育めるものではないので、やはり学生の背中を押し、一歩目を踏み出させることが必要だとも考えています。「主体的にやろう」という程度の呼びかけではダメで、本当は「まずはこれをやりなさい」と具体的に強いるぐらいのことがないと実際には難しい。一歩目を踏み出せない学生は、「関学にはこんな多様なプログラムがあるからやってみよう」とはならないと思うのです。きほんシリーズの様子③.jpeg


小山:就活についても主体的に取り組んだかどうかが、その後の人生を左右することになりますよね。早く就活を終えることを優先して内定先を決めた結果、実際に働いてみると自分がイメージした仕事、エージェントから聞いていた職場環境とは全然違う、といったことはよく起きています。そこで転職しようにも、1年は勤めていないと説得力のある転職理由を説明できません。学生時代は、「所詮ファーストキャリアだし、嫌だったら転職すればいい」と考えている学生もいますが、常にキャリアアップにつながる転職のイメージしかなく、キャリアダウンになってしまうイメージを抱けていない気がします。実際のケースとして、しっかり考えずに一つ目の就職先を選び、うまくいかないと場当たり的に転職を繰り返してしまう負のループに陥ることはあり得ることです。そうならないためにも深く考えてほしいし、自分の選択肢を広げるためにも主体的に取り組んでほしいと、キャリアセンターは口を酸っぱくして伝えているのですが...。


村田:学生それぞれの価値観や将来設計は違いますから、すべての学生が一律で同じ支援を受ける必要もないと思うんです。しかし、大学生時点で明確に将来のキャリアが定まっていなくても、漠然と将来は社会で活躍したいと思っているけれど、何となく大学生活を過ごしている学生に対して、「とりあえずこれにチャレンジしなさい」と働きかけることは大事なことのように思います。村田④.jpg


小山:「考える機会」という意味では、キャリア教育においては、受講学生に徹底的に考えさせる機会を必ず提供しますよね。


村田:主体性を育む最初の一歩として、受講している学生に対して、半ば強制的に考えさせたり行動させたりする仕掛けがあるものは良いことだと思いますし、そういうことが求められているのではないでしょうか。


小山:背中を押すという面では、関学は大学をあげて日本人学生の留学派遣に取り組んできていますが、その甲斐もあって学生にとっての留学のハードルはかなり下がっていると思います。特に短期留学プログラムには、ものすごい数の学生が参加しています。就活でのエントリーシートに留学に関する記述があるのが普通になってきたのは、この10年の大きな変化ですね。


國頭:関学は歴史的にも海外留学派遣が多い大学です。実際に学生たちからは、「留学を就職に活かすにはどうしたらいいか」「留学中の就活はどうしたらいいか」といった相談をよく受けます。また、保証人対象の教育懇談会でも、留学とキャリアについての相談は、最も多く寄せられる質問内容の一つです。積極的に留学に参加して海外経験を積むことで、主体的な学びの姿勢が身につくとともに、グローバル・キャリアの可能性が広がり、全世界が将来の活躍の場となります。國頭④.jpg



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