コロナ禍により、留学プログラムは大きな規制を受けました。このような時期において、国際連携機構事務部に勤務する職員たちは、どのような困難にぶつかり、どのように乗り越えてきたのでしょうか。第2回目は、オンライン化の促進や各種緊急留学支援策の設立・展開など、前例のない課題に立ち向かった軌跡を振り返ります。
2018年入職。受入チームに所属し、交換留学生の受入のほか、国際教育寮(有光寮)及びレジデント・アシスタント(RA)担当として寮教育プログラムの検討・実施に携わる。大学時代に1年間、アメリカの大学での交換留学を経験。
2015年入職。法学部事務室を経て2018年、国際連携機構事務部へ異動。受入チームにおいて正規留学生の受け入れ体制の対応(入試、奨学金、在留管理、ビザ手配、キャリア支援)などを担当。コロナ禍では派遣チームにてオンラインプログラムの開発・広報を担当。親族や出身高校の影響で、異文化に親しみのある環境で育った。韓国籍。
2019年入職。教務チームで国際連携機構が提供する留学生と一般学生が融合する科目と国際交流制度の運営等に携わり、コロナ禍中から海外大学生と協働学習のCOIL型科目を開発。2022年4月より派遣チームで、短期語学留学プログラムを担当。中国籍。
2020年入職以来、派遣チームに所属。短期語学留学プログラム・交換留学担当を経て現在はCross-Cultural College (CCC)担当。コロナ禍で留学が叶わなかった学生を対象とした各種支援策の実施などに携わる。大学時代にアメリカとフィンランドの大学への交換留学を経験。
将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)の実現には、教職員たちの強いつながりが不可欠です。KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務を横断して語り合う場を創出することで、教職員間の相互理解を促し、想いを共有します。
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今回は、長期戦略の共通テーマとして全学が横断して取り組む『国際化』を牽引する国際連携機構事務部の4名の職員によるトークを5回に分けてお届けします。
『真の"Global University"の実現をめざして vol.01』はこちら
姜 本学における留学生の受け入れについては、SGU(文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」事業)施策(詳細はこちら)で数値目標が設定されていたこともあり、急拡大してきましたが、受入人数が増えた分、業務のボリュームも増大しました。外国籍の学生が日本で生活するには入国管理法に基づいて受け入れる必要があり、そのような手続を行うには法律の知識が求められます。留学生を受け入れる大学には、在留カードの管理・帰国指導の徹底が課されていますが、法令遵守のための情報収集には多くの時間を要していました。コロナ禍では特殊な手続も必要になったことも重なり、その課題がさらに顕在化したように思います。この状況を改善するために、CIEC(国際教育・協力センター)の受入担当チームで検討・提案した結果、行政書士への業務委託、及び在留管理システムの導入を実現することができました。
また、留学生への情報発信のブラッシュアップにも取り組みました。従来の学生向け配布資料やお知らせ内容が分かりづらく、重要な情報を届けようとしても、多様な情報に溢れる大学では、その情報を必要とする学生に上手く届かないという課題がありました。特に留学生に対する情報は、生活の根幹に直結するものも多く、例えば在留カードの期限が切れてしまうと法律違反となり、学生生活が継続できない問題ににもつながります。そこで、学生目線での情報発信を意識して、前例踏襲ではなく、発信内容の見直しを行いました。言葉遣いや視覚的な構成など、資料ひとつをとっても、「学生に響く」という視点を意識して作るようになりました。こういったことを始めたのは、派遣担当チームのメンバーとプログラム広報に一緒に取り組んだ経験が生かされています。派遣チームは留学に前向きな意識の高い学生にさらに訴求するため、新しい情報発信方法やイベントなどを、学生視点でどんどん展開していたので、受入チームに持ち帰って具体化に向けて取り組みました。
このような改善の取り組みは、もちろん上司に相談して行いますが、「なぜ変えるべきなのか」「どのような効果が期待できるのか」という理由や根拠を説明することができれば、後押ししてもらえる組織風土があると感じています。
北川 2022年から国際教育寮のRA(Resident Assistant)を担当していますが、「有光寮」では、2022年度から寮教育プログラムをいくつか実験的に実施しました。そのひとつ「Faculty visit」は、本学の教員をゲストティーチャーとして寮に招き、特別講義を行ってもらうイベントで、直近では「折り紙を通じてグループワークを学ぶ」という面白い講義を商学部の先生に実施いただきました。その他にも、「有光寮」だけではなく「国際学生レジデンスⅤ」でも、RAによる月1回程度の異文化交流イベントを開催してきました。
コロナ禍によって、サポートを担うRAの学生たちのほとんどが留学生と交流した経験がなく、取りまとめの私も含めお互いにバタバタしながら取り組んできましたが、RAがとても頑張ってくれたおかげでいい活動ができたと思っています。2023年度以降も、学内外の人々の協力を得ながら拡充させていきたいです。そのためにも、RAの採用選考、研修やトレーニングも充実させたいと思います。
大きな視点で言うと、国際教育寮は学生交流の重要な場の一つであるので、キャンパスの国際化という大きなゴールに貢献できるものになると期待しています。
星野 コロナ禍の始まりと共に入学した学生たちは、約2年半、留学に行きたくても行けない期間がありました。そして、コロナの状況が落ち着き、「さあ、今から行こう」となると、3年生や4年生の高学年次に留学することになり、就職活動や卒業計画に大きな影響が出てしまう状況でした。このような事情から留学を諦めてしまいそうな学生の悩みや負担を軽減するため、留学の影響で在学年数が伸びたとしても、留学期間に準じて学費を相殺できる「海外留学特別奨学金」という、新たな奨学金制度を2021年度末に設立しました。この奨学金の利用に関しては、まずは学生にしっかりと周知した上で、関心を持った学生と個別に、卒業計画や費用等、それぞれに適した相談や案内に、部署全体として取り組んできました。
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さらに、2022年の夏頃、急激な円安と物価高になってしまい、留学費用がそれまでと比べて単純計算で1.5倍ぐらいかかるという時期がありました。その時期に留学に行く学生の経済的負担を減らすため、奨学金とは別に一定額の支援金を支給する「緊急留学支援金」の創設についても、前例のない事態に部署全体で連携して取り組めました。
これら制度の骨格は上司が発案したものですが、奨学金や支援金の細かい取り決め、学生のニーズや実情を知った上での運用手順、学生の目線に立った周知方法などついて、担当者として関わりました。
田 私はCOIL型教育に力を入れてきました。COILとは「Collaborative Online International Learning」の略語ですが、文字通りオンラインでの国際協働学習であり、コロナ禍において、世界各国で重視されるようになった教育手法です。
アメリカの米国教育審議会では世界中の大学を招いてCOIL研修を行っていました。企画書などを提出、採択されたうえで、その研修を受け、協定校と共にワークショップを行い、ようやくCOIL型科目の開発に取り組むことができます。開発には、2、3ヶ月ほどかかります。私たちの場合、「今回は日本時間で。次回はアメリカ時間で」といった具合に時差の壁を越えて複数回、協定校と話し合いを重ねて作り上げていきました。
COIL型科目の開発は、まさに教職協働の作業です。私たち職員は、協定校の担当者と連絡を取り合い、開講時期、授業時間、総授業時間数といった基礎的な部分から、授業として成立させるための規則の部分まで幅広く話し合います。一方、教員側でも、専門領域やテーマに繋がりがないと科目の開発ができないので、例えば、本学の教員はビジネス専門で、先方の教員は政治学が専門だったので、「アメリカの就労制度と日本の就労制度の比較」といった共通するテーマで協働学習する授業をデザインしていきました。
そうして完成した科目を学生に提供し、そこから得たノウハウをどんどん学部開講科目にも広げていきました。コロナ禍で盛んになった教育手法ですが、キャンパスにいながら授業を通じて海外の学生と交流や協働学習ができるというメリットは大きく、対面授業を100%再開した今でも、いくつかのCOIL科目の開講が続いており、国際交流の選択肢が広がった点はとてもよかったなと思っています。
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星野 私は交換留学を担当していたのですが、派遣再開時の最初の基準を作るのにとても苦労しました。というのも、社会情勢的にはまだ手放しに「海外に行っていいですよ」とは言えない部分があったからです。大学が提供するプログラムである以上、安全性を担保する必要があります。当初は、ワクチン接種、現地でのコロナ対策を基準としていたので、1大学ずつしっかりと確認することに加え、日本を含めて日に日に変化する各国の水際対策の状況を出発ギリギリまで調べていました。学生の立場からすると、約1年前に留学参加の選考があり、留学する大学は決まったのに、実際に行けるかどうかが直前まで分からない、というのはとても辛いことだったと思います。残念ながら基準に合わずに行けなかった学生もいました。今振り返ると本当に手探りの状況でした。
田 私はその頃に短期留学の担当でしたが、同じく水際対策には翻弄されました。今日時点では、隔離が必要かと思えば、次の日には陰性証明を出せばOK、といった具合に、コロコロと対策が変わっていく状況でした。コロナ禍の規制開始と共に入学した学生は、既に3年生になっており、せめて短期留学だけでも行かせてあげないと、4年生になってしまったら、ますます留学がしづらくなります。一定の安全を担保できるプログラムを厳選し、夏季ではなんとか約160人を派遣することができました。正直なところ、当時はいかに対策案を練ったとしても、結果的に何が発生するかわからない状況でした。
星野 大学が提供する留学プログラムである以上、大学の責任下で実施するという側面がある一方で、実際にビザを取って、派遣先でいかに安全安心に過ごすかというところは学生の責任になってきます。どこまで大学が責任を負うのか、私たちも葛藤していました。しかし、学生側から、「大学のプログラムだから責任があると言っても、実際行くのは私たち。責任という言葉はいらない」とはっきり言われることもありました。とはいえ、責任範囲は明確にしなければならず頭を悩ませました。
田 そうですよね。こういった状況にありながらも、本学が短期留学を再開したのは、日本の大学で一番早かったと言っても過言ではないと思います。実際、学生も教職員も苦労した部分はおおいにありましたが、各国の規制の違いなどの情報をある程度蓄積することができました。2023年5月に日本では新型コロナが「5類」に引き下げられますが、それに伴う水際対策の変更にどのように対応すべきかについても、これらの経験のおかげである程度見通しが立っています。この先、他大学と比べてもいち早くフルパワーでの派遣再開が実現できるのではないかと思っています。
姜 日本人学生と同様に本学で4年間学び、学位取得をめざす正規留学生は、コロナ禍において、3年生になるまで一度も来日できない状況になっており、私たちも非常に心苦しい思いをしました。日本人学生もキャンパスに来られずオンライン授業を受けていた時期はまだやむを得ないにしても、日本国内での対面授業が徐々に再開しつつあるのに、ビザが発給されず、留学生だけが入国できないという時期がしばらく続きました。そのような留学生たちに、関学生としての帰属意識を持って欲しいという思いから、「今は離れているけれど、待っています」というメッセージを動画にして送ることにしたんです。
動画の作成にあたっては、日本にいる一般学生、留学生との交流を促進するCIECの公認団体、日本国内にいる先輩留学生や教員にも協力していただきました。職員としても、オンライン上のやりとりばかりが続いていたので、「メールだけでは少し冷たく感じるかもしれないのですが、私たちはあなたたちを思って、全力で支えています」という気持ちを伝えようということで取り組みました。
完成した動画はたくさんの人に視聴してもらうことができ、留学生からは「自分のことを待ってくれていると感じました」「早くキャンパスを実際に見たいと思いました」というコメントが寄せられました。またこの動画作成のみでなく、オンラインでの京都バーチャルツアーを実施したり、メンタルが低下気味の留学生に電話したりするなど、留学生ケアの複数の企画に取り組みました。
北川 私がコロナ禍で非常に悩ましかったのは、寮内イベントにおける飲食制限ですね。飲食ができなくなり、どのように親睦を深めたらよいのか苦慮しました。RAの学生たちは、頑張って親睦イベントを設計しようとしているのに飲食をはじめとする制限ばかり、という葛藤があったと思います。このような中でも、野外で距離を取って黙食という形をとったり、ミニゲームや自己紹介に時間を割くなどの工夫をし、月に1回のイベント開催を絶やさずに実施できたのは、RAたちが主体的に考えて制限を踏まえた提案を出してくれた結果です。RAの学生には心から感謝しています。
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田 私はこのコロナ禍で「対面」の大切さを改めて感じました。やはり同じ環境にいて、実際に会って話すことに大きな意味があると思います。コロナの規制が緩和されはじめたとき、私は教務担当でしたが、先生方にハイブリッド型の授業をしてくださいと説得して回りました。キャンパスに来られる学生は対面で、やむを得ずキャンパスに来られない学生は遠隔で授業を受けられるようにするためです。職員側にも教員側にも大変さはありましたが、「対面で受けられてよかった」という学生からの声があり、努力した甲斐がありました。授業もそうですが、留学もそうで、現地に行くことでしか得られない成長や価値があるんだろうと、コロナ禍を経て再確認しました。
北川 田さんが仰る対面の大切さはもちろんですが、私は逆にこのコロナ禍でオンラインの可能性を感じました。コロナ禍以前はイベントも案内も全て対面実施がベースでしたが、例えば海外の協定校に向けた案内やコラボイベントが、オンラインだと距離を越えて気軽にできるのだと知りました。これはポジティブな点だと捉えています。
星野 そうですよね。例えば学生向けの説明会は対面で紙の冊子を配る、というのがこれまでのやり方でしたが、説明会をオンラインで開催することで、遠方でも時間の制限があっても参加できる上に、後から動画を見直すこともできます。オンライン化の利点は、今後も残しておくべきだと思います。
姜 対面開催のみの機会提供によって取りこぼしていた層にも、オンラインという便利なツールを使うことによって、情報を届けることができるようになったということですよね。