Challenge Stories
~私たちが未来のためにできること~

~起業実践プログラム「Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY」の魅力~
2024.04.26公開

関西学院がめざすアントレプレナーシップ教育と起業支援vol.02

第2回は、起業実践プログラムである「Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY」の具体的な取り組みと、創設の背景について話し合いました。

  • 国際学部 教授
    木本 圭一

    研究分野は、人文・社会/会計学。2014年から2016年まで社会連携センター長、2017年より社会連携コーディネーター(現在まで)を務める。関西学院のアントレプレナーシップ教育の立ち上げから関わり、現在は「ベンチャービジネス創成」を担当。

  • 研究推進社会連携機構 社会連携・インキュベーション推進センター
    佐野 芳枝

    関西学院大学経済学部卒業。金融機関の法人営業など、複数企業を経て入職。関西学院のアントレプレナーシップ教育全体のコーディネート、各種プログラムの企画運営を担当。正課授業の院内講師も務める。

  • 卒業生・講師
    松本 修平

    関西学院大学商学部卒業。慶應義塾大学特任助教(2024年6月より名古屋大学特任准教授)。幼少期から関学卒業までに複数事業を創業。監査法人トーマツ等を経て、現在は京都大学大学院博士課程にて起業家教育の研究に従事。関学では正課授業に加え、起業を志す学生へのフォロープログラムを担当。

  • 卒業生・起業家
    濱田 祐太

    関西学院大学法学部卒業。株式会社ローカルフラッグ代表取締役社長。学生時代に「イノベーションと起業家精神」を受講。在学中に起業し、京都府与謝野町で地域資源を生かしたクラフトビール事業等を展開。Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMYメンター。ベンチャー新月会にも所属。

  • 社会起業学科 3年生・起業家
    小菅 優衣

    関西学院大学人間福祉学部社会起業学科3年生。株式会社Bestieat代表取締役。1年生の夏より関西学院のアントレプレナーシップ教育関連プログラムを複数受講。並行して神戸にあるパン屋のロスパンを2次流通させる事業「あすぱん」をはじめ、2023年11月に法人化する。

関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員をはじめ、本学院関係者の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務、立場を越えて語り合う場を創出することで、相互理解を促し、想いを共有します。


 将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら


関西学院大学では、2016年秋より「IPOアントレプレナー100⼈創出プロジェクト」を掲げ、アントレプレナーシップ教育と起業支援に取り組んでいます。今回、これらの教育と支援に取り組む教職員及び卒業生講師、さらに起業家として活躍する在学生・卒業生に参加してもらい、関西学院の起業家育成の取組状況や特長、今後の課題について意見を交わしました。5回に分けてお届けします。


『関西学院がめざすアントレプレナーシップ教育と起業支援vol.01』はこちら

KGスタートアップアカデミーの取り組みについて


佐野 KGスタートアップアカデミー(Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY)は半年間の正課外プログラムです。13時間×全22回(4クール構成)。各回5限終了後の19時から22時までみっちり行います。プログラムの中身は、社会人MBAコースのような経営戦略や理論を学んで、それに基づいて実際に事業を立ち上げ、利益を出すところまでを3クール繰り返します。最初は闇雲にやっていたとしても、試行と検証を繰り返すことで、頭だけではなく経験に基づいた、いわゆる"地に足のついた"事業計画が作成できるようになります。


最終の4クール目には、13クール目での事業計画作成と実践の経験を基に、集大成となる(プログラム修了後に実際に事業化させたい)事業計画を作成します。そのため、プログラム修了後には、作成した事業計画に基づいて一歩踏み出せば、起業できる状態となります。学生なので、お金の面も含め、限られた資源の中で何ができるかを考え抜かなくてはいけません。小菅さんは2022年度のKGスタートアップアカデミー修了生ですよね。プログラムに参加したのは、どういう理由からだったのでしょうか。


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小菅 私の高校3年間は、コロナ禍で何もできなくて、課題だけがひたすら出てくるという状況でした。当時は社会的にSDGsがすごく注目されていて、私は文献だけで社会問題や世界の起業家の話をずっと読んでいたんです。そのようなことを学ぶ中で、関西学院大学の社会起業学科がおもしろそうだと思い、進学しました。入学後、授業での学び以外に、実際に何か行動を起こすきっかけがないかと探していたところ、1年生の夏にKGスタートアップアカデミーの募集がされているのを見つけて、参加を考え始めました。でも正直なところ、入学金が必要となることもあり、最初は迷いもありました。それでひとまず友達に誘われて説明会に参加してみたら、プログラム紹介のプレゼンにすっかり魅了されてしまって、申し込むことを決めたんです。


木本 説明会参加者の全員がそうなるわけではないので、小菅さんは感性が鋭いってことですよね。


小菅 高校を卒業してから大学1年生の夏までの間は、アルバイトで貯めたお金であちこち旅行していました。「このまま遊んで大学生活を終えるわけにはいかない」という気持ちもあったんだと思います(笑)。


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濱田 僕は、毎年冬頃に呼んでいただき、スタートアップアカデミーのメンターとして参加させてもらっています。関学生たちが発表するビジネスプランについて、アドバイスやコメントをするのが役割です。僕自身、まだまだ経験が浅い立場ではありますが、「ホンマにそれをやりたいんですか?」という質問を起点に、アドバイスというより一緒に話し合う中で、何か見つけてもらえたらいいなと思いながらやっています。あとは、それぞれの進捗度合いに応じて、協力してくれそうな人や場所を紹介したりもしています。このプログラムに携わるきっかけは佐野さんからのお声がけでした。


佐野 私が所属する社会連携課(2024年4月からは社会連携・インキュベーション推進センター)は、関西学院大学と社会の総合窓口なので、外部と学内のネットワークを構築してハブ的な役割を果たしていく立場です。卒業生をはじめ外部の方とお話する中で「このプログラムにはどういう方が適任か」を常に考えています。濱田さんは学生起業家でもいらっしゃったので、学生に近い立場でアドバイスしていただけると思い、メンターに推薦させていただきました。


濱田 ありがとうございます。


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小菅 私自身の行動を振り返ってみると、大学入学後すぐの時期に、このKGスタートアップアカデミーを受講できたことがよかったなと思っています。社会経験がない中、企業に営業に行った際は、失礼なこともいっぱいしてしまったのですが、学生だから許された部分もあり、また、学生だからこそ注意してくださる方もいました。そういった経験が、今、実際に法人化した際の基礎体力になっていると実感します。プログラムでは、新規事業を3回作るのですが、直接販売やネット販売など、各回のフレームが決まっているので、必然的に毎回異なる業種の事業計画を作ることになり、業種に応じた作り方や法律上の問題点なども学ぶことができました。大学卒業後に何か事業を始めるとしても、どこから着手すればよいかをすぐに考えられる起業の実践的なノウハウを学ばせてもらったことはとても有意義でした。


濱田 でも現状では、小菅さんのように在学中に起業する人は、まだそんなに多くはないですよね。


佐野 そうですね。在学中に何か事業を立ち上げたとしても、卒業後は1回就職する方が多いように思います。小菅さんは、大学卒業後はどうされますか?


小菅 はい...。「これからどうするの?就職するの?」ということはたびたび聞かれるんですけど、正直「聞かないで」と思っています(笑)。関学に進学して「あすぱん」を立ち上げ、法人化して、ちょうど2年が経ちます。2年間でこれだけの変化があったので、ここからさらに2年後となると、自分でも本当にわからないですね。


木本 そんな時は、IPO社長の話を聞くと気が楽になりますよね。同じ事業をやり続けている人はいないですから。「変化を恐れない」という言葉がキーワードです。


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KGスタートアップアカデミー創設の背景


佐野 そもそもKGスタートアップアカデミーは、実践する場を作ろうという考えから生まれました。どれだけいいプランがあっても実践しないと意味がないわけですから。それで本学で学生起業をし、その後ご自身の会社でも学生起業家を育てる事業をされてきた真田哲弥社長(KLab株式会社 取締役会長 ファウンダー/株式会社BLOCKSMITH&Co. 代表取締役社長 CEO)に相談したところ、「実際にお金を稼ぐ実践プログラムが必要だ」とアドバイスをいただき、現在、KGスタートアップアカデミーを担当してもらっている株式会社ウィルフを紹介してもらいました。小菅さんは実際にKGスタートアップアカデミーで学んでみてどうでした?


小菅 本当にとんでもないプログラムでした(笑)。まず受講時間が夜の7時から10時で、新規事業の立ち上げを3回やるというのも本当に大変。しかも知らないメンバー同士でチームを組んで取り組むのですが、学年も違えば、就活やアルバイトなど、それぞれのスケジュールもなかなか合いません。そんな中、チームごとに競わされ、「来週までに売上最低10万円」みたいな目標も課せられるんです。


佐野 LINEで毎日の進捗を報告しないといけないんですよね。


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小菅 はい。毎日24時までに、その日の売り上げ、営業数などの報告が求められます。それで、目標売上に達していないと「なぜ達成できなかったんや!」と問われます(笑)。ハードなため、途中で脱落してしまう学生も結構いました。こんなプログラムは他にないと思います。


営業活動するときは、大学名やプログラムの課題であることを、先方に伝えてはいけないルールなので、いい意味で頼るものがない環境の中で事業を3回も作って実践していくことになります。これは非常に苦しかったのですが、貴重な経験になりました。ただ頼るものがないといっても、取り組む中での内面的なサポートは手厚いですし、教材も非常にクオリティが高いものです。もはやプロ向きの資料なので、起業した今でも見返しています。学生の実践にとことん付き合ってくださる環境はすごくありがたかったですね。


また、厳しい環境で最後まで残った受講生たちには、それぞれにやりたいことが明確にあるんですよね。"生き残った"仲間たちとの団結はとてもかたくて、今でもよくご飯に行きます。自分が事業を始めるきっかけとしてだけではなく、いい仲間と出会えたという意味でも、受講してよかったプログラムランキング1位ですね。同時に、大変だったランキング1位でもあるんですけど(笑)。


濱田 私は小菅さんの「あすぱん」のプレゼンを実際に聞いたのですが、完成度が非常に高くて「これはすごい」と思い、実際にパンを買いに行きました(笑)。


このプログラムのすごいところは、自分でお金を払ってまで起業の勉強をしたいという関学生が毎年40人ちかく集まっていることだと思います。初年度、サポートに行った時は、正直なところ、何をやりたいのかよくわからない発表もあったのですが、今年のプログラム参加者は、すでに事業化している学生もいて、年々レベルが上がってきているのを感じます。それにみんな真面目なんですよね。「フリマアプリで何かを売る」というタスクにもきちんと取り組んでいる様子でした。


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小菅 フリマアプリは最初のタスクですね。「メルカリで本を売りました」みたいな報告が多かったです。まずはそこからスタートして、徐々に生き残りをかけた戦いに発展していくんです。


佐野 自分との戦いですね。


小菅 本当にその通り、自分との戦いなんです。


佐野 KGスタートアップアカデミーは、2023年度で第9期になります。濱田さんがおっしゃるように、変遷があって、期ごとに参加学生の様子も変わってきているように感じます。とはいえ、小菅さんも感じておられたように、プログラムの最後に修了生に一人ずつ感想を話してもらうのですが、どの期もほぼ全員が「この仲間に出会えてよかった」と言ってくれるんです。そういうコミュニティというか、それぞれが起業していく中でも「共に頑張ろう」と思える仲間は、学生時代じゃないとなかなか築けないと思います。そういう面では、提供側が意図した以上の価値が生まれているのかなと感じています。


松本 このプログラムは"起業基礎力ブートキャンプ"と言いますか、徹底的に実践力を鍛えるもの、という印象を持っています。受講生のみなさんは、かなり追い込まれた状態になりますよね。例えば、私は起業をめざす学生たちを対象にしたゼミを運営しているのですが、とあるゼミ生がKGスタートアップアカデミーで豆腐店から卸してもらった豆腐を駅前などで販売していました。仕入先の豆腐店を体当たりで開拓した後に、一時は在庫を抱えすぎてしまったようですが、販売にはまるポイントを見つけてなんとか在庫をさばいていました。何とかする力と言いますか。良いか悪いかはいったんおいて、超稼働してやれてしまうという点が、やはり「ブートキャンプしてるな」という感じでした。


小菅 その方は、私の1学年上の先輩なのですが、「今日はこの場所で売れました」みたいな連絡が当時私のところにもきていました。


松本 本当にパワフルでしたね。


佐野 彼女は今もパワフルですよ。


木本 このようなプログラムは正課授業にはできないですよね。だからこそ有料の正課外プログラムなのです。実際の起業に向けたアクセラレータープログラムなので、"ブートキャンプ方式"であることが必要だと思います。


実はKGスタートアップアカデミーの有料化には当初、検討段階で議論がありました。無料プログラムにすることも可能だったのですが、受講料があるという理由で入るのを断念するような人だと、最後までやり遂げることはできないでしょう。「お金を払ってでも参加したい、という意欲が必要だ」ということで有料にしましたが、実際に何年か実施してみて、そのこと自体は間違ってなかったと思います。とはいえ、プログラムにかかる費用をすべて受講料でまかなえている訳ではなく、大学から相当な額を補助しています。


小菅 受講料は 確かに必要ですが、実際には、プログラムにおける事業に真剣に取り組めばその額をすぐに回収できます。私は第1クールの事業で、絶対に回収してやろうと思って取り組んでいました(笑)。


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社会連携・インキュベーション推進センターHP


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Vol.3 ~「Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY」のさらなる充実に向けて~