第4回は、起業を志す学生を個別に支援するフォローアッププログラムの取組内容と実際の様子を踏まえて、意見を交換しました。
研究分野は、人文・社会/会計学。2014年から2016年まで社会連携センター長、2017年より社会連携コーディネーター(現在まで)を務める。関西学院のアントレプレナーシップ教育の立ち上げから関わり、現在は「ベンチャービジネス創成」を担当。
関西学院大学経済学部卒業。金融機関の法人営業など、複数企業を経て入職。関西学院のアントレプレナーシップ教育全体のコーディネート、各種プログラムの企画運営を担当。正課授業の院内講師も務める。
関西学院大学商学部卒業。慶應義塾大学特任助教(2024年6月より名古屋大学特任准教授)。幼少期から関学卒業までに複数事業を創業。監査法人トーマツ等を経て、現在は京都大学大学院博士課程にて起業家教育の研究に従事。関学では正課授業に加え、起業を志す学生へのフォロープログラムを担当。
関西学院大学法学部卒業。株式会社ローカルフラッグ代表取締役社長。学生時代に「イノベーションと起業家精神」を受講。在学中に起業し、京都府与謝野町で地域資源を生かしたクラフトビール事業等を展開。Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMYメンター。ベンチャー新月会にも所属。
関西学院大学人間福祉学部社会起業学科3年生。株式会社Bestieat代表取締役。1年生の夏より関西学院のアントレプレナーシップ教育関連プログラムを複数受講。並行して神戸にあるパン屋のロスパンを2次流通させる事業「あすぱん」をはじめ、2023年11月に法人化する。
関西学院では、2039年を見据えた超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」(KGC2039)を策定しています。本学院のありたい姿を描き、それを実現していくためには、教職員をはじめ、本学院関係者の強い繋がりが不可欠です。そこで、KGC2039で掲げる長期戦略から抽出したテーマをもとに、部署や業務、立場を越えて語り合う場を創出することで、相互理解を促し、想いを共有します。
将来構想「Kwansei Grand Challenge 2039」についてはこちら
関西学院大学では、2016年秋より「IPOアントレプレナー100⼈創出プロジェクト」を掲げ、アントレプレナーシップ教育と起業支援に取り組んでいます。今回、これらの教育と支援に取り組む教職員及び卒業生講師、さらに起業家として活躍する在学生・卒業生に参加してもらい、関西学院の起業家育成の取組状況や特長、今後の課題について意見を交わしました。5回に分けてお届けします。
松本 私が担当しているフォローアッププログラムのベースは、メンタリングです。年間150名以上の学生が利用しています。単位はありませんが、大学オフィシャルのプログラムです。
小菅 松本先生のフォローアッププログラムは、最近、全然予約が取れないほど人気なんです。
松本 個別にLINEで相談してくる学生の対応もしているので、150名と言いましたが、実際はもっとかもしれません。一人ひとりへのメンタリングの際にすべてのことを伝えるのは不可能なので、オンデマンドの動画講座も配信しています。例えば「学生起業を戦略的に進めるにはどうしたらいいか」というテーマで、私自身が関学生の時に起業した経験談などを伝えたりしています。さらに、ゼミ形式の勉強会も開いています。
佐野 LINEグループによる情報交換もしていますよね。
松本 はい。いろんなアプローチでフォローしているのは、KGスタートアップアカデミー(Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY)がハマる学生とハマらない学生、実践的なプログラムより授業を好む学生など、ニーズが多様だからです。それらを幅広く拾うことが私の役割なのかなと思っています。また、これらの関学でのプログラムとは別に、監査法人で起業支援も担当しているので、起業の準備体操から、本気で取り組んでいる方への支援まで、振れ幅の広いサポートができるのが、私の強みだと思っています。
恐らくこのようなサポート機能が学内に必要だというご判断で、2018年に佐野さんがお声がけしてくれたのかなと思います。実は私自身、大学1年生の頃から佐野さんのお世話になっておりまして、"佐野さんネットワーク"に助けられてきた内の一人なのです。
佐野 松本先生は他大学でも起業支援されていますが、他大学と比べたとき、関学生にどんな印象がありますか?
松本 関学生は飲み込みが早いなという印象です。さらに、良い意味で倫理性を持っています。たとえば、私がお金儲けのための極端な事例を挙げたとしても、そのままやろうとする学生はおらず、みなさん、ちゃんと自制心を働かせてくれるんですね。そういったところが関学らしさかなと思います。一方で、少しブレーキを踏みがちというか、安全に物事を進めようとする傾向があるようにも思います。なので倫理性を保ちつつ、時には良い意味での大胆さを後押しできるように、絶妙なところを意識してアドバイスしています。
小菅 私はKGスタートアップアカデミーを卒業して、学内外のピッチコンテストに出場する際に、フォローアッププログラムのお世話になりました。学内のピッチコンテスト(Kwansei Gakuin PITCH CONTEST)を通過すると、関西の14大学で賞をとった学生たちが集まるコンテスト(KANSAI STUDENTS PITCH Grand Prix)に出場できます。松本先生にお世話になったのは、これらのピッチに向けたブラッシュアップが最初です。関学の起業支援に関わるさまざまな方から「松本先生のメンタリングを受けた?資料見てもらった?」とお声掛けいただいたのがきっかけです。その後、今のゼミ長に誘っていただき、松本ゼミに入りました。
先ほど(第3回)の濱田さんのお話にもあったように、"色がない"関学のフォローアッププログラムは「なんて"神"プログラムなんだ!」と、強く感じています。松本先生は、どのような状態でも、メンタリングに行ったらまずお話を聞いてくださって、その上で軌道修正してくださります。「学生の学びを大事に」という思いが伝わってきて、安心して相談できるんです。このフォローアッププログラムは、起業を志す学生にとっては絶対に必要なものだと思います。私はピンチになったらいつも申し込んでいます。
佐野 逆に便りがないのは、元気の印ってことですね。
濱田 "駆け込み寺"みたいな感じになっていますね。
小菅 そうなんです。最近はメンタリングの予約が取りづらく、実際に多くの学生に必要とされているプログラムだと思います。さらに、講義動画も配信されていて、見たい時に見ることができるので、私は大学の授業の空きコマなどに見ています。今、自分が動かしている事業と直接関係ない内容であっても、とても役に立つので、ぜひ今後も続けていただきたいです。
関学のこういった起業支援のことを他大学の学生に話すと「すごいね」っていつも言われて、とてもうらやましがられます。ここまで起業支援に力を入れている大学は、他にはあまりないと思います。
濱田 確かに、どの大学にもここまでのプログラムはないと個人的に思います。
小菅 月に1回ぐらいは、学外の方から「関学いいな」と言われている気がしますね(笑)。ピッチなどでは、他大学の学生や起業家の方と話すことがありますが、「関学って、めっちゃ起業支援の体制が整っていていいね」とよく言われます。そして「関学の佐野さん」はやっぱり有名です(笑)。
木本 この業界において、「関学の佐野さん」を知らない人はいないですよ。社会連携や起業支援関係で名刺交換をすると「佐野さんっていらっしゃいますよね?」とよく聞かれます(笑)。
佐野 ありがとうございます(笑)。そうやって作った外のネットワークを学内に還元したいと思い活動しています。
フォローアッププログラムを始めた思いとしましては、「ベンチャービジネス創成」のような授業だと履修登録しないと受講できませんし、KGスタートアップアカデミーも申込が必要になり、いつでもというわけにはいきません。でも、起業したい/起業に興味あるという学生は、いつでも一定数います。社会連携センター(2024年4月~社会連携・インキュベーション推進センター)ではそういった学生たちの相談を受けてきたのですが、私たちだけでは一次窓口しかできないので、やはり専門家の支援が必要だと感じていたんです。それで松本先生にお声がけし、このプログラムを開設しました。
松本先生のご尽力もあって、起業を志す学生や、すでに事業を立ち上げている学生が、いつでも、どのタイミングでも相談できる駆け込む場・機会を整えることができたと思っています。
一方で、学内認知度の面では、まだまだ課題があります。関学生が外部機関に起業の相談に行って、「関学だったら社会連携センターがこんな取り組みをやっているよ」と逆に教えてもらって帰ってきた、ということもあります。学生が起業したいと思った時、最初の相談相手となった教員・職員から社会連携センターをご紹介いただけるような情報発信も必要だと感じています。
もうひとつは、起業支援を希望する学生数が増えており、支援枠の確保が難しくなってきていることです。本学には約25,000人もの学生がいて、彼らにどのように支援の機会を提供できるのか。例えばメンタリングを利用した学生に「また申し込んでね」と言ったものの、予約がいっぱいで次の予約が取れないということもありました。このような機会損失を防ぎ、多くの学生に価値を届けられるよう、対策を練らなくてはいけません。
木本 全教員に「就職活動の相談はキャリアセンターへ」と案内しているように、「起業したい学生は社会連携センターへ」と案内すればよいと思いますが、相談案件が増えて応対できないとならないよう、まずは受入体制の拡充が必要ですね。
濱田 フォローアッププログラムは私が在学中にはなかったので、関学のアントレプレナーシップ教育全体が充実してきているのを感じました。学生にとっては本当にありがたいプログラムだと思います。ちなみに、松本先生は週にどれぐらい関わっていらっしゃるのですか。
松本 枠でいうと毎日ですが、週に2、3回はイレギュラーで夜中に急患が来たりします(笑)。
佐野 KGピッチの出場者に向けたメンタリングもやっていただいていて、4コマ連続ということもありましたよね。
濱田 今後、松本先生のようなメンターが増えていくんでしょうか? 学内に常駐で誰かいてもいいですよね。
佐野 それも考えたのですが、やはり誰も来ない時間もあるので、今はオンラインでの予約制にしていますね。
小菅 何回も何回も考えて、コミュニティのメンバーともひたすら考えて、「これ以上何をしても結論が出ない」という時に、松本先生にお話を聞いてもらうんです。先生とお話すると、何か道筋が見えてくるので。そのため「もうどうしようもない」という時に申し込みたいのですが、だいたい、そういう時には締め切りが過ぎていて...。
佐野 そうですよね。予約申込が1週間前だから...。
木本 お話を聞いていると、松本先生がとても真摯に取り組んでくださっていることがよくわかります。まさに、松本先生が関西学院の起業教育・支援のアクセラレーターですね。でもだからこそ、松本先生のみに頼り切ってはいけない。そう思う一方、松本先生並みの方を探すのは至難の業です。松本先生にしかできないことと、他の方でもできることがあると思うので、レベルや内容によって分け、質を損ねずにより多くの学生を支援できるよう、支援の仕組みを整理しないといけないように思います。
佐野 KGピッチのブラッシュアップは、(株)ウィルフさんにもお願いしているので、内容によって振り分けることはできるかもしれませんね。松本先生は、今後どのようにしていきたいですか?
松本 フォローアッププログラムはコロナ禍スタートだったので、デジタル寄りの対応が多いのですが、みんなで集まるなど、リアルの部分も拡充していければと思っています。神戸三田キャンパスに2025年春、KSC Co-Creation Village【C-ビレッジ】を開設して、その複合施設内にインキュベーション施設(Startup Base【S-ベース】)ができる予定ですので、そういった取り組みにもコミットしていきたいですね。
小菅 インキュベーション施設のほかに学生寮も商業施設も同時にできるそうですね。すごいですよね。
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